復習を重視しがちな「家庭学習」、深い理解に必要な「予習」の知られざる効果 カギは教師による「予習と授業」の連動設計
例えば、まずは「なぜ」を自分の言葉で説明することを予習の課題として与えておく。そして、授業ではその「なぜ」について子どもたち同士で説明し合う活動を取り入れ、説明できる子が先に教え役になり、その後で役割を交代するといった設計にする。「そうすれば、どの子も自分の言葉で説明することになるので、『理解できた』という手応えを実感しやすい授業になるのではないか」と篠ヶ谷氏は言う。
こうした授業設計は、塾などで先取り学習をしている子どもたちの深い理解にも有効だ。彼らは、公式は知っていても、なぜその手順で解けるのかについては十分に説明できない場合が多いからだ。
「予習と授業をうまく連動できれば、予習へのモチベーションが上がり、予習の習慣化も期待できると考えています」
確立されていない「家庭学習指導」、保護者にできることは?
では、保護者が家庭学習の効果を上げるためにできることは何か。予習と授業が連動している学校が少ない現状においては、無理に予習させようとせず、「まずは学校で今日何を習ったのかを聞くことではないでしょうか」と篠ヶ谷氏は助言する。そして子どもが習った内容を話したら、「へえ、どうして?」「なんでそれで解けるの?」 と投げかけるとよいという。
「そうすると子どもは自分の言葉で話し始めます。これによって知識が整理されて理解がさらに深まることが期待できますし、説明してみることで自分の理解度をチェックすることもできます。予習を意識した働きかけをするのであれば、学習のアウトラインを事前に確認するだけでも理解が促されるという知見も教育心理学にはありますので、『明日は何を習うの?』と問いかけて見通しをつかませるのもよいかもしれません」
現在、篠ヶ谷氏が力を入れている研究テーマは、「予習の定着」だ。予習を取り入れて継続するにはどのような壁があり、どのように工夫すればその壁を取り払えるかなどについて、さまざまな学校現場と共に明らかにしていきたいという。また将来的には、まだ確立されていない「家庭学習指導カリキュラム」の編成も実現したいと篠ヶ谷氏は語る。
「私は、家庭での学習は、学年が上がるごとに学習習慣を身に付ける段階から学習の質を重視する方向へシフトする必要があると考えています。予習・授業・復習という一連のサイクルを通して、深い理解につながる家庭学習指導のあり方をデータとともに示せたらと思っています」
確かに自治体や学校の「家庭学習の手引き」では、「学年×10分」という学習時間の目安の提示や復習に関連する記述が多く、予習を含めた具体的な方法や進め方を詳しく示すものにはなっていない。学年に応じた効果的な家庭学習のあり方がわかれば、教師も保護者も子どもの学びを支援しやすくなり、とくに教師は学習指導に当たって家庭との連携もしやすくなるのではないか。思考力が求められている今、「深い理解」を伴う知識の獲得に欠かせない「予習」は、今後の研究成果が待たれるところだ。
(文:田中弘美、注記のない写真:pearlinheart/PIATA)
東洋経済education × ICT編集部
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら