しかし驚いたことに、これを『えこひいき』と捉える生徒もいて、事情を説明しても『タイピングのほうが速いし、漢字も書かずに済むからテストも有利だ。あの子だけパソコンを使えるのはずるい』と主張します。それが保護者に伝わり、『不公平なのでは』とクレーム沙汰になることすらあるのです」
本来なら、「境界知能(グレーゾーン)」と呼ばれる知能指数(IQ)が70〜84の生徒にも個別のサポートが必要だ。彼らは一般的なIQの基準値に満たないながらも知的障害とは認められず、特別支援学校に通うことが難しい。しかし柴崎さんによれば学校は、「うちの子も手厚く見てほしいのに、なぜあの子だけ特別扱いをするのか」という保護者からのクレームを恐れて、担任や学校支援スタッフによる補習も積極的には実施できないようだ。
「教員評価制度」が子どもの権利を脅かす
「自治体によっては、少数生徒の対応を放棄する学校もあります。出世を目指す教員にとって、多数の保護者からクレームを受けることは致命傷です。また公的なテストで0点を取る生徒が多いと、平均点が下がり学校の評価にも影響します。そこで『補習はできません、嫌なら私立へどうぞ』という態度を取るのです。私としては、文科省が定める教員の評価基準も見直すべきだと思います。省庁に入る優秀な方々には、『できない子』の実態は理解できないのではないでしょうか」
国籍、貧富の差、そして障害のあるなしにかかわらず、すべての子どもたちが一緒に学べる「インクルーシブ」教育を実現するには、通常学級の改革も必要だ。不登校や発達障害の生徒を「通常学級の輪の中に乱暴に放り込む」ことが「全員を平等に扱う」こととされてはならない。
憲法は、すべての人がその能力に応じた教育を受ける権利を保障しているが、それぞれの能力に合わせた指導や支援は40人学級では難しいのが現実。こうした中で日本は、少人数学級体制や特別支援学級、特別支援学校の拡充にも関わる教育予算を減らし続けてよいのだろうか。かけ声だけの「インクルーシブ教育」ならば、推進されるほど生徒を苦しめるかもしれない。
(文:中原絵里子、注記のない写真:xijian/E+/Getty Images)
東洋経済education × ICT編集部
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