60歳以降のお金が心配な人に知ってほしい継投策 少し現役延ばし、公的年金受給開始の間も埋める

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③ 中継ぎ(セットアップ): 私的年金等

野球における中継ぎ、それも勝ちパターンで登板する「セットアップ」の役割を担うのが、企業保障(退職一時金・企業年金などの退職給付制度)や個人保障(貯蓄・個人年金などの自助努力手段)などさまざまな制度・金融商品からなる「私的年金等」だ。

野球の継投策は、イニング数・球数や相手打者の状況を見ながら投手交代のタイミングを決定できるほか、ワンポイント(1人の打者だけに投げること)やロングリリーフ(長いイニングを投げること)などさまざまな手法がある。

私的年金等による中継ぎも、個々人のライフプランに応じて継投の順番・組合せ・タイミングを自由に決定できる柔軟性の高いしくみとなっている。複数の投手をマウンドに並べていっぺんに投げさせる荒業も可能だ。

また、自助努力で老後に備えるうえでの最大のハードルは、自分が「いつ死ぬか」あるいは「いつまで生きるか」を正確に予見するのが困難なため、いくら準備すればよいのかが不明な点にある。

ただ、自助努力で備えるべき範囲が「就労引退」から「公的年金を受給開始するまで」の5~10年程度と期間が明確になれば、具体的に準備すべき金額が見えてくるため、目標意識を持った備えが可能となる。また、5~10年分の備えであれば、有期年金や一時金が主体となっているわが国の私的年金の給付実態にも適う。

「継投」を制する者が老後を制す!?

以上の通り、老後生活設計における「継投型」は、私的年金等による中継ぎに「就労延長」と「公的年金の繰下げ受給」を組み合わせることで、老後生活をより盤石なものにすることを目指している。また、ここ数年の雇用・労働法制や、公的年金・私的年金の相次ぐ改正により、継投を実行するための環境が大きく整備・改善されている。

一方で、「先発完投こそ至高」と信じて疑わないオールドファンのように、上記のような急激な変化に拒否反応を示す者も出てくるだろう。

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先発完投型から継投型へと変貌したことで、わが国の野球人気は失墜しただろうか。いや、失墜するどころか、プロ野球も高校野球も主要な人気スポーツの一つとして現在もなお君臨し続けているのが現実だ。

2005~07年頃の阪神タイガースの継投策であるJFK(ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之)は、勝ちパターンで登板する中継ぎ投手を「セットアップ」と位置付け、先発投手やクローザー(リリーフエース)と同等の地位に引き上げた。この継投策は、現代野球における投手分業制の新たな地平を切り拓き、各球団もこぞって追随した。

著者は、阪神タイガースのJFKになぞらえて、前述の老後生活設計における継投型を「WPP」と命名した。Wは就労延長(Work longer)、2つのPは私的年金等(Private pensions)および公的年金(Public pensions)を表している。野球が時代の変化に対応したのと同様に、老後生活への備え方もまた時代とともに新たな「勝利の方程式」を見いだす必要がある。

谷内 陽一 社会保険労務士、第一生命経済研究所 主席研究員

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たにうち よういち / Yoichi Taniuchi

1973年北海道生まれ。1997年明治大学政治経済学部卒業後、厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)入職、約10年にわたり記録管理・数理・資産運用等の業務に従事。りそな銀行等を経て、2019年第一生命入社。日本年金学会副代表幹事、埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師、第一生命経済研究所主席研究員および社会保障審議会臨時委員(企業年金・個人年金部会)を兼任。社会保険労務士、公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、DCアドバイザー、1級DCプランナー。主な著書に『人生100年時代の年金制度:歴史的考察と改革への視座』(共著、法律文化社)など。

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