停電リスクにさらされる都内大病院、大規模な心臓手術が困難。長期戦へ準備、東日本大震災
東日本大震災で生じた停電リスクの影響で、人工心肺装置などを使った長時間にわたる心臓外科手術の実施が困難になっている。野村実・東京女子医科大学医学部麻酔科学講座教授(日本心臓血管麻酔学会常任理事=写真)によれば、「人工心肺を用いた手術は最低5時間、長い場合は12時間以上かかるため、当大学でもすでに予定の決まっている大きな心臓手術(定期手術)はしばらく見送らざるを得ない状況にある」という。
野村教授が籍を置く東京女子医大付属病院では、震災から2日後の3月14日は安全確保のため定時手術を中止して機器や電源設備の点検を実施。翌15日に心臓手術や長時間の重症手術以外は部分的に再開した。「3月22日の週については、手術時間や輸血のリスクを考えながら心臓手術を含めた手術症例を通常の80%程度組んだ」(野村教授)という。
東京女子医大が位置する東京・新宿区は「計画停電」の対象地域外だ。1423床の大病院で、自家発電設備も完備している。ただ、MRI(磁気共鳴画像装置)など大きな電力を消費する装置も多く、「自家発電に切り替えた場合にすべての医療機器が正常に作動する保障がない」(野村教授)。また、燃料供給が不安定な現状では、自家発電に用いる燃料もできるだけ温存しておきたいという事情もある。
長時間かかる大がかりな手術には、大動脈弓部手術や人工心臓手術、心臓移植、脳死の膵腎移植などがある。「最も難しいのは緊急の大動脈瘤破裂の緊急手術で、大量の輸血が必要」(野村教授)。だが、「血小板など血液製剤の追加調達が難しい」(野村教授)という事情がある。3月18日現時点では「手術に必要な薬剤は今のところ十分に確保しているものの、中長期にわたって供給体制が維持できるか見えていない」(野村教授)。
東京女子医大病院では、通常では毎週1回の割合で「手術調整会議」を開催しているが、「当面は週2~3回の割合で物品調達状況を含めて手術調整会議を開いていかないといけない」(野村教授)。すでに一部の診療科では、「長時間手術について、関西方面の病院にも協力を求めている」(野村教授)。
今後は学会会員などからもきちんとした情報を得つつ、「中長期的な戦略を構築していくことが何よりも必要だ」と野村教授は強調する。
(岡田 広行 =東洋経済オンライン)
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