「AIは心を持つのか」哲学者が積み重ねた深い議論 脳をシミュレートすれば本当に心が生じるのか?

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もう1つは二元論と呼ばれるもので、心は物質とは異なる非物理的な存在であって、世界は非物理的な存在と物理的な存在の2種類で構成されているという考え方です。

マルクス・ガブリエルの哲学

二元論のほうは、こうした人間の脳をシミュレートすれば心が生じるかのような発想に異議を唱えます。ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルもその1人です。彼は、「私たちの心は脳とイコールではない」と断言しています。心はもっと複雑で可能性を持ったもののはず――。

それにもかかわらず、科学者が精神と脳を同視しようとするのは、自分たちが納得いく物語の中にすべてを当てはめたいからです。したがって、ひとたび私たちはAIに心が宿ったと信じてしまったとたんに、そうした物語の中に取り込まれてしまいます。それは私たちが自由を失うことにほかならないと、ガブリエルは警鐘を鳴らしているのです。

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AIに心が宿るかどうかはわかりませんが、宿ったとしたら、心は科学によって作り出せるものになってしまいます。とりもなおさずそれは、人間の心が科学によって支配可能なものになったことを意味します。そんな恐ろしい状態を認めないようにするには、心は特別な存在であると唱え続ける必要があるということなのでしょう。

それに、もし仮にAIに心が生じても、その心が人間とまったく同じものであるかどうかは厳密には証明しきれません。なぜなら、人間同士でも人の心の中など見ることはできないのですから。AIに心が宿るかどうか、あなたはどう思いますか?

今回はAIでしたが、お金や趣味、仕事など身の回りにあるさまざまなことを「哲学する」ことで、視野が広がったり、物事を俯瞰して見ることができるようになります。すると、その結果、自身の問題や悩み事、社会的な課題を解決できるようになるのです。ぜひ、少しでも「なんでだろう?」「どうしてだろう?」と気になったことに対して、自分の考えを言葉にしてみてください。

小川 仁志 哲学者、山口大学国際総合科学部教授

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おがわ ひとし / Hitoshi Ogawa

1970年、京都府生まれ。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後 期課程修了。専門は公共哲学。商社マン(伊藤忠商事)、フリーター、公務員(名古屋市役所)という異色の経歴を持つ。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員等を経て現職。大学で新しいグローバル教育を牽引する傍ら、「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。また、テレビをはじめ各種メディアにて哲学の普及にも努めている。NHK・Eテレ「ロッチと子羊」では指南役を務める。
『手塚治虫マンガを哲学する 強く生きるための言葉』(リベラル社)や『ざっくりわかる8コマ哲学』 (朝日新聞出版)など、100冊以上出版している。

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