金融政策は段階的な調整を念頭に点検・検証を 財政規律の緩みや大幅円安などの副作用積上がる
元財務官でみずほリサーチ&テクノロジーズ理事長の中尾武彦氏は、来年4月に日本銀行の新総裁の下で新たな体制が発足した後、金融政策の段階的な調整を念頭に点検・検証を実施すべきだとの考えを示した。中尾氏は黒田東彦総裁の後任候補の1人に挙がっている。
中尾氏(66)は7日のブルームバーグとのインタビューで、10年に及ぶ大規模金融緩和により、国の財政規律や民間銀行の事業活動への悪影響、大幅な円安進行といった副作用が積み上がっていると指摘した。インタビューは英語で行われた。
新体制の発足を期に「金融政策の副作用と枠組み変更の可能性について点検・検証を実施すべきだ」と言う。一方、点検・検証は公開または完全非公開もあり得るが、この先にいかなる変更があるとしても、大きな衝撃を避けるために漸進的に行うべきだとの見方を示している。
市場では日銀新体制への移行を期に政策の点検・検証が行われるとの観測が浮上している。
日銀の田村直樹審議委員が先週、点検・検証の必要性を主張し、来年にも実施される可能性を示唆したことで観測に拍車がかかった。その後、黒田総裁と中村豊明審議議員は、点検・検証の実施は時期尚早との認識を示した。
ポッドキャスト(英語)
中尾氏と黒田総裁はこれまで歩んできたキャリアに共通点が多い。両氏ともに為替政策を担当する財務官やアジア開発銀行(ADB)総裁を歴任した。ただ、現行政策によって積み上がるマーケットや財政、円への副作用に関して、中尾氏の現在のスタンスは黒田総裁とは異なっている。
黒田総裁は、持続的な物価目標の実現へ賃金がさらに上昇するまで日銀は現行政策の枠組みを堅持すべきだと主張。一方、中尾氏は、エネルギーなど商品価格の上昇を除けばインフレは緩やかで、賃金の伸びは力強さを欠いており、日本は他国と異なる状況に置かれるとみる。
中尾氏は、長期金利の上昇を低く抑える日銀の政策によって債券市場の機能と銀行の利益が損なわれていると指摘。これが「事実上の財政ファイナンス」にもつながっており、政府は安い資金調達コストに大幅に依存して経済を支え、財政規律が犠牲になっているため、膨張する債務負担を考えると不安な状況だと語った。
その上で、「政策変更をいつまでも先延ばしすることはできない。これは明白だ」とし、「インフレ目標とイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)、大量の資産購入、将来のコミットメントの組み合わせについて再検討を始める必要がある」と述べた。
中尾氏はどのような政策変更であっても極めて難易度が高いとして、現行政策に精通する日銀出身者が黒田総裁の後任になるべきだとの考えを示した。
エコノミストの間で中尾氏は黒田総裁の後任候補の1人として目されているが、最有力は現副総裁の雨宮正佳氏と元副総裁の中曽宏氏だ。2人の現副総裁は3月に交代する。
中尾氏は、何が起ころうとも、出口は誰にとっても難しい任務になるとみている。
出口となれば「住宅ローンや政府の資金調達、年金運用にも影響が出るだろう。多くの人にある種のショックが生じる」と指摘。「これは決して好ましいものではない。ただ、今のままの状況を永遠に放置しておくことはできない」と語った。
次期総裁が取るべき次の一手に関して明確なアイデアはないと述べた中尾氏だが、日銀が事前に公表することなく内部で点検・検証を実施する可能性を示唆した。
中尾氏は「公開すれば、マーケットにある程度のボラティリティーをもたらす」と予想。「公開すべきか非公開にすべきかは私には分からない。ただ、政策効果と政策枠組み、副作用の点検・検証について、そしてどのように変更し得るかについて検討を始めるべきだと思う」と話した。
原題:New BOJ Leaders Should Rethink Policy, Fiscal Impact, Nakao Says(抜粋)
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著者:野原良明、竹生悠子、Stephanie Flanders
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