ルクセンブルク「公共交通無料」はどれだけ便利? 乗り物も個性的、風光明媚な車窓が満喫できる

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ここからはトラムで、ユネスコの世界遺産に登録されている旧市街を目指す。先に反対方向の電車が来たので振り返ると、架線がないことに気づいた。旧市街周辺は景観のためにフランスのニースなどと同じように、架線を使わず、車両にバッテリーを積んで対処しているのだ。ほどなくして自分が乗る方向の電車が来たので乗り込む。

欧州のトラムの車内は、広告がないのですっきりしているが、ルクセンブルクはとりわけそう感じる。乗車券を認識する機器などがないことが大きい。後ほど乗ったバスもそうだった。機器類を省略できることはコストダウンにもなるだろう。

キルシュベルク電停を出た電車は、長い橋でアルゼット川を渡ると、まもなく旧市街の西縁をなぞるように走り、ハミリウス(Hamilius)電停に着く。旧市街の入り口で、脇にはバス停もあり、交通結節点になっている。

旧市街を散策し、東端に出る。展望台から見下ろす渓谷の景色は、時間を忘れて見続けていられるほど美しい。目を凝らすと遠くに、アルゼット川をまたぐ国鉄のアーチ橋があり、列車が通り過ぎる姿を見ることもできる。

パンタグラフで給電するバス

展望台の脇にはバス停がある。今度はバスに乗り、渓谷の対岸を目指すことにする。やってきたのは電気バスで、音もなく走り出すと渓谷に向かって下り、降りきったところで川を渡ると、今度はつづら折れの上り坂で対岸の丘に向かっていく。

この間、国鉄の線路と3度交差した。付近には停留所もいくつかあるので、レンタカーを借りなくても、バスを乗り降りしながら撮影に興じることができそうだった。その場合にも運賃は不要であることは言うまでもない。

対岸の丘の上は最近開発されたと思わしき住宅街で、バスは住民の足になっていることがわかった。一方の筆者はまったく土地勘がないので、終点のセント・ヴァーサトゥルム(Cents Waassertuerm)まで行くことにする。

終点のバス停は三角州にあり、折り返しが容易な構造になっていた。次のバスを待っていると、屋根からパンタグラフが立ち上がった。この方式での充電方法を実際に目にするのは初めてだった。

パンタグラフで充電する電気バス(撮影:森口将之)

車内には電気バスの性能が示されており、満充電までの所要時間は5分、航続距離は140kmと書いてあった。路線バスにふさわしいシステムだと思った。ほどなくして旧市街を経由し中央駅に行くバスが到着したので、駅前のホテルに戻った。

欧州の都市ではよくあることだが、一般的に治安がよいとされているルクセンブルクの中では、中央駅周辺はいまひとつという印象を受けた。そこで夕食は旧市街でとることにした。こういう行動が気軽に取れることも、充実した公共交通と無料化のおかげである。

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