「円安」で起こっている日本人が知りたくないこと 実質過去50年間で最も安い水準にある意味

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円安は日本経済の病巣の症状であるだけでなく、病巣を悪化させる。日銀は、円安が日本に純益をもたらすと主張するが、それは間違いである。これはゴルディロックスの原則で、弱すぎる通貨は強すぎる通貨と同じくらいダメージを与えるというものだ。日本の経済学者の多くは、この問題に関して日銀の意見に反対している。

一方で、円安は日本の輸出とGDPに以前ほど貢献していない。日本の実質(価格調整後)貿易収支の改善による実質GDP成長率への寄与は、最近の平均で年率0.1%と、誤差程度のわずかなものである。これは、円高だった数十年前と比較しても、けっして高くはない。

一方、円安は実質賃金や消費者の購買力、中小企業の収益力を著しく低下させている。それは、輸入集約的な食料とエネルギーの大幅な値上げを引き起こすからだ。

過去18カ月間、そして過去10年間の総物価上昇の9割は、食料とエネルギーに起因している。その他の経済分野の物価は、2012年から2022年までの10年間で、わずか2%しか上昇していない。

外国の生産者により多くのお金を払うように

これは、日銀が生み出そうとして失敗した健全な2%のインフレとはほど遠いものである。輸入品による物価上昇は、日本の家計から外国の生産者に所得を移転させる。また、日本の家計から日本の多国籍企業へも間接的に所得を移転する。

後者の仕組みはこうだ。日本の消費者は、自分の所得の多くを海外の生産者に支払う。その一部は、日本の多国籍企業に還元される。なぜなら、多国籍企業はより多く輸出することができ、海外の関連会社で得た利益は本国へ送金される際に、より多くの円を生み出すからである。

円安は、賃金抑制や消費税増税と相まって、2019年の価格調整済み家計消費(コロナ禍前)が2013年より1%低く、現在は2013年より2.6%低くなっている理由の一部である。戦後を通じて、これほど長期にわたって家計消費が落ち込んだことは過去にない。

日本の生産性・革新性の底上げを行い、日本企業の国際競争力を高める改革が必要である。円ショックは警鐘を鳴らしている。問題は、政策立案者がこの警鐘を本当に聞き入れ、先見の明のある日本の専門家が提案した多くの有益な提案を最終的に採用できるかどうかである。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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