静岡リニア「川勝知事」JR東海にまたも無理難題 権限及ばない山梨県のトンネル工事中止を要請

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有識者会議は「県外への流出量は非常に微々たる値でしかない」と結論づけた。下流域の利水に使用された直後、島田市神座地区の河川水量は平均約19億立方メートルであり、その変動幅はプラスマイナス9億立方メートルもあるから、最大約500万立方メートルは県内の変動幅に完全に吸収されてしまうと説明していた。それにもかかわらず、国交省は「工事中の全量戻し」の方策をJR東海に求めたのだ。

この結果、県は「工事中のトンネル湧水全量の戻し方について解決策が示されていない」ので、「トンネル工事を認めることはできない」という見解を導きだした。山梨工区のトンネル工事による静岡県内の湧水への影響も「工事中の全量戻し」の延長線上にある。

たとえ影響があったとしても、極めて微々たる値であり、多くの専門家はそんな議論をする必要性に疑問を投げ掛けている。

県の専門部会はトンネル工学を無視

JR東海は専門部会で、先行探査を役割とする高速長尺先進ボーリングを使い、地層を確認しながら掘削するので大量の出水はありえないと説明したが、県専門部会委員は「高速長尺先進ボーリングが破砕帯に当たれば大量湧水を招く」などトンネル工学を無視した発言を行った。丸井敦尚委員は高速長尺先進ボーリングの役割を正確に説明したが、他の委員と意見の食い違いのみが明らかになった。専門部会委員の1人、トンネル工学を専門とする安井成豊委員は招集されておらず、県専門部会の議論に正当性はない。

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このような場合、国交省がちゃんと指導に乗り出すべきだが、担当者は「今回の問題も東京電力の田代ダム取水抑制案による大井川への放流で解決することを期待する」との発言でお茶を濁した。川勝知事はこれまで、田代ダムからの放流を「工事中の全量戻しと認めない」と発言しているから、まずは川勝知事への対応をきちんとしなければならないのだ。

このままでは、川勝知事の思惑通りに新たな不毛な議論が始まることになる。10月6日開かれた県議会産業委員会で、県企業局は「大井川広域水道が水不足に悩まされたことはない。給水に十分な余裕がある」と説明した。川勝知事「62万人の命の水」がでっち上げであることが明らかになった。このような動きの中で、県議会12月定例会では、自民県議らが川勝知事の「命の水」のうそを追及するとしている。リニア問題の解決には、川勝知事のうそを排して、事実を正確に伝えていくしかない。

国交省は大井川下流域の水環境問題がすでに解決していることを住民らにわかりやすく説明する場を設け、「命の水」の真実を伝えてほしい。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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