「紙・電子に3Dプリンターも」生徒が最適なツール考えて使う図書館の真の狙い 工学院大附属中高のメディアライブラリー発想

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スマートフォンの普及やネットワークの大容量化は、大人だけでなく子どもの情報環境をも大きく変えた。文部科学省では2018年に第四次「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」で子どもの読書活動を推進しているが、SNSや動画など情報源の多様化で、長い文章や文字自体に触れる機会が減っているという見方もある。さらにコロナ禍では多くの図書館が閉館を余儀なくされた。これにより、いながらにして読める電子書籍への注目も高まったが、学校での取り組みには差があるのが現状だ。ICT化とともに考える、今日の学校図書館の理想の姿とは。

電子書籍や読み上げ機能、ネット情報も併用して学ぶ

2020年11月、文科省は「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」でアンケート調査を実施した。この調査結果によると、「公立学校で電子書籍を購入する予定はない」と答えた自治体は全体の82.4%。「今後公立学校で電子書籍の導入を検討している」が8.8%、「今後公立学校で電子書籍の導入を予定している」が1.3%、「すべてまたは一部の公立学校で電子書籍を導入している」と答えた割合は2%にとどまった。導入を阻む要因として挙げられるのは予算や知識の不足だ。

そんな中、東京都八王子市にある工学院大学附属中学校・高等学校では早くから図書館のICT化を進めており、多彩な取り組みをしていることで知られている。

学校の学びの中で図書館をどう活用しているか、いくつか例を紹介しよう。高校で取り組む朝読書では電子書籍が人気だ。限られた時間の中での読書と、「借りに行く」「返却に行く」という作業を短縮できる電子書籍は相性がいいという。また、図書館に併設された「多読ルーム」をはじめ、英語の教材も充実。英語科の教員と相談して洋書も多数用意しており、読み上げ機能のある電子書籍は発音のレベルアップにも貢献している。

「インターネットの利用については情報の授業で学んでいます。1人に1台配布されている端末で調べればすぐに答えは出ますが、子どもたちは必ずしもそれを鵜呑みにしないリテラシーも身に付けています。ネットで得た情報を確かめるために図書館に来たり、見つけた資料を『先生、この本どうかな?』と相談してきたりもします」

こう語る国語科担当の臼井理恵氏は同校に赴任して5年目。司書教諭として図書館を任されてからは今年で2年目だ。コロナ禍の初期に図書館が閉じられた際には、前任者が電子書籍を増やす判断をし、さらに生徒たちにその利用を再周知した。それが功を奏し、電子書籍の貸し出し数は大きく伸びたという。

「コロナ禍でも本を読みたいという子どもたちの気持ちに応えることができました。すでに環境が整備されていたことはとてもよかったと思います」

臼井氏はこう話すが、その後にはさらにうれしいことも起きた。

「電子書籍で読めることが認識されても、だから図書館に来なくなるということはありませんでした。学校が再開されると、子どもたちはみんな図書館に戻ってきたのです」

工学院大附属中高の図書館は2フロアに分かれている。1階は個人のスペースが仕切られ、読書や勉強に集中できる静かな環境だ。いわゆる「普通の図書館」という印象の1階に比べ、2階は騒がしいわけではないものの、生徒や教員が会話しながら多様な作業に取り組めるカジュアルな雰囲気が漂う。この居心地のよさから、この図書館は生徒にとって「気軽に行ける場所」になっているのだ。この気軽さこそが、同校が目指す図書館のあり方において最も重要な点だ。

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