「紙・電子に3Dプリンターも」生徒が最適なツール考えて使う図書館の真の狙い 工学院大附属中高のメディアライブラリー発想

アナログツールも共存、「メディアライブラリー」の発想
高等学校教務主任で英語科の田中歩氏は、ICT教育のあり方について方針を語る。
「ずっとデジタルツールを使うと疲弊してしまうのは、大人も子どもも同じだと思います。また、英語学習に欠かせない『辞書を引く』という作業も、電子ではなく実物を手に取ってやってみなければわかりません。紙か電子かの二択ではないし、電子化だけを目的とするのでもなく、双方のいいところをうまく選べる環境をつくりたいと考えています」
臼井氏も「私が担当になった時点で、この図書館はとてもICT化が進んでいました。メリットもたくさんありますが、一方で、それだけでいいのかなという気もしたのです」と言う。それらの言葉どおり、同校ではデジタルとアナログの両方が共存している。
毎年新たに図書館に入れる本を選ぶ「選書ツアー」は、図書委員と司書教諭が書店に赴いて本を探すものだ。コロナ禍によって書店訪問には制限が生じたが、直近の選書ツアーは図書館で開催。生徒一人ひとりが読みたいと思う本を選出し、電子版と実物の両方を購入した。生徒自身の好みや都合で好きなほうを選ぶことができるし、電子版と紙の本を見比べることもできる。また、NIE(Newspaper In Education)の取り組みも続けており、中学校の社会科や高校の現代社会では新聞切り抜き作品のコンクールにも参加している。生徒たちは図書館に積み上げられた新聞を広げ、拡大も縮小もできないアナログの紙面と向き合うのだ。
さらに同校の図書館のラインナップは、本や新聞にとどまらない。2階の「Fabスペース」には3Dプリンターや大型モニター、レゴ®マインドストームなども用意されており、ものづくりの好きな子どもたちが集まっている。高校生が中学生を指導したり、大学生となった同校の卒業生がチューターとして入ったりすることもあるという。
「メディアライブラリーの発想で、あえてさまざまなツールを切り離さずに設置しています。本は本、デジタルツールはデジタルツールというように別々にしてしまうと、子どもたちの中でそれらの使い方がつながりません。それが紙でもデジタルでも、自分たちで最適なツールを考えて選択できるようになってほしいのです」(田中氏)

選択肢を増やし、多様な経験をさせることを重視する同校の図書館。取材の日には、男子生徒が文化祭「夢工祭」への出展を目指し、レゴ®マインドストームでロボット製作にいそしんでいた。また、YouTubeに公開する動画や体育祭のイベントサイトを自発的に作る生徒もいるなど、成果を実感できる発表の場があることもモチベーションにつながっているようだ。
授業の取り組みでも選択肢は多い。例えば英語でライティングの課題を提出する際、形式はタブレットにペンで直接書き込んだデータでもいいし、紙に書いたものを撮影した画像でもいい。要は「書く」という経験をすることが重要なのであって、デジタル化することが重要なのではない。どちらが自分にとって効率的か、生徒は自分で試したり、友達のやり方を見たりして自ら決めていく。