日本が「円安地獄」にハマって抜け出せない真因 日本と欧米でインフレ要因は大きく異なる

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コア指標は長期的なトレンドの予測に適している。対照的に、食料品とエネルギーは、パンデミック、戦争、中国の成長の変動など、国家がコントロールできないグローバルな事象に対応して大きく変動する。日本の7月時点のコア指標は0.4%に過ぎず、日銀の目標値である2%をはるかに下回っている。これに対し、アメリカのコア指標は6%に上昇し、ユーロ圏では4%に達している。

このため、黒田総裁は日本のインフレは一過性のものであり、金利を上げる必要はないと見ているのだ。7月の展望レポートで日銀は、消費者物価指数(除く生鮮食料品)は2023年度には1.2〜1.5%に下がると予測した。これに対し、アメリカやヨーロッパの中央銀行は、今、インフレの上昇モメンタムを積極的に抑制しない限り、インフレが自己増殖し、さらに高い水準に上昇することを懸念している。

日本と欧米のインフレの違い

黒田総裁は、日本のインフレは「コストプッシュ型」であると主張している。一方、データによれば、アメリカでは「デマンドプル型」が強く、ヨーロッパでは両タイプのバランスがとれている。

デマンドプル型とは、総需要が、経済がその需要を満たす能力(すなわち総供給)よりも速く上昇していることを意味する。このため、経済が持続可能な速度よりも速く成長する、いわゆる「オーバーヒート」が発生し、インフレが引き起こされる。

パンデミックの間、アメリカ政府は不況をおそれて家計に対し大量の現金を提供したが、そのお金の多くはロックダウンなどで使い途がなく貯蓄にまわされた。そして今、その現金が過剰な需要を生んでいるのである。

これに対する救済策は、金利を引き上げて需要を減速させ、需要が供給と均衡するようにすることだ。残念ながら、景気を後退させることなくこの減速を実行するのは難しい。インフレが高まれば高まるほど、またインフレが長引けば長引くほど、ソフトランディングの難易度は増す。

一方、コストプッシュ型とは、原材料価格が上昇によるもので、例えば現在自動車生産を妨げている半導体不足や、ロシアによるヨーロッパへの石油・ガスの供給停止などによって引き起こされる。その結果、GDPが低下しても物価が上昇することがあり、これを「スタグフレーション」と呼ぶ。

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