消えた「数学C」が復活、奇妙すぎる日本の教育改革 脱「ゆとり」を提唱した数学者から見た教育行政

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筆者は2007年に桜美林大学リベラルアーツ学群に移って現在に至るが、その前後は小中高校への出前授業ばかりでなく、全国各地の教員研修会での講演も積極的にお引き受けした。現場の先生方との交流はとても勉強になった。

ところが2009年に、事態が急変する新たな制度が導入された。10年に一度の教員免許更新制である。しばらくの間はこの制度の実態を知ろうと思い、何箇所かの免許更新講習の講師を積極的にお引き受けした。それを通して得た結論は、これは矛盾に満ちたものである、ということだ。実際、2013年に出版した拙著『論理的に考え、書く力』(光文社新書)には次のことを述べた。

毎年、あちこちの会場で免許更新講習が行われているが、教育現場にまったく興味をもたない大学教員が自分の専門のトピックスをばらばらに話しているだけのところが圧倒的に多く、昔からあった各自治体での定期的な教員研修制度のほうが、現場を考えての研修だけにずっと機能していたと断言できる。

そもそも「不適格教員」の問題は、この制度ができる前に対処の方法が確立していたのであり、何のための制度かさっぱり理解できない。せいぜい、教員の身分が不安定になったように印象づける制度かもしれない。それによって失ったもののほうがはるかに大きいと考える。

そして本年度(2022年)になって、教員免許更新制はようやく廃止されたのである。

「大学共通テスト」記述式導入への憤り

上記拙著は、「数学の試験はマークシート式でなく、なるべく記述式がよい」ということを趣旨としている。また、日本数学会は2012年2月21日に「大学生数学基本調査」(前出)に基づく数学教育への「提言」を発表した。中等教育機関に対しては「充実した数学教育を通じ論理性を育む。証明問題を解かせる等の方法により、論理の通った文章を書く訓練を行う」。大学に対しては「数学の入試問題はできるかぎり記述式にする」。

ちなみに本務校の桜美林大学では、2013年2月の一般入試から全問記述式の数学入試を導入した(一部日程ではマークシート形式の数学入試が存続)。

そのような背景があったので、大学入試センター試験を引き継ぐ「大学入学共通テスト」(2021年度から開始)の数学で、部分的に記述式の数学問題の導入が予定されていると知ったときは複雑な気持ちになった。

記述式の数学試験は同志社大学のように、個々の大学が主体的に行うのがベストであり、50万人もの記述式答案を大学入試センターが採点できるのかと疑問に思った。そして2019年の秋になって、その具体案が明るみになった段階で、筆者は以下のような点で憤りを感じた。

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