さらに、働き方改革の副作用も大きい。「先生方、早く帰れるようにしてくださいね」と呼びかけている立場上、以前から雑多に引き受けていた教頭の仕事について、ほかの教職員といっそう分担しにくくなっているのだ。
第4に、教頭への評価の問題もある。「教頭の仕事は大変だけど、頑張ります」という人が評価される風潮は、まだまだ多くの学校現場、教育行政にあるのではないか。教頭の中には校長を目指している人が多いこともあって、校長や教育委員会に悪く思われたくないという心情になりやすい。
そのために何か問題や不満があっても、校長や教育委員会に訴えづらい。「つらくても我慢するしかない」「あと数年、とにかく乗り切ろう」という思考回路になりやすい。こうなると、業務を改善したり、業務分担を見直したりという発想にはなかなかならない。
特効薬はないが、今すぐ取りかかれる解決策はある
以上、少なくとも4つの背景・要因が教頭の多忙、過酷さには絡んでいる。特効薬はないが、仮にこの見立てが当たっているなら、解決策も見えてくる。
業務量の多さについては、やはり書類や手続き、調査などを一つひとつ確認して、断捨離していくことが必要だろう。文書や調査の多さは、おそらく教育委員会の縦割りも影響している。各部署の論理、必要性で学校に注意喚起をしたり、データを求めたりするのだが、第一線にいる教頭にあれもこれも集中している。これは中学校などで、各教科の先生がよかれと思って宿題を出し、教科間の連携が取れておらず生徒の過重負担になるのと似ている。
このまま過労死リスクの高いまま教頭を放置してよいと思う教育長はいないはずだが、教育長らが各部署に働きかけて、できることは多々あるのではないか。
そうした業務そのものの見直しや業務量を精査したうえで、分担、分業も検討していくべきだ。例えば、PTA関連の負担が重い学校もある。保護者向けの文書などを教頭が作って印刷までしている学校もある。お便りを電子配信にしたり、保護者ともっと作業を分担したりすることが必要だろう。国または教育委員会では「教頭がやらなくていい仕事リスト」を作成してみるのもいいと思う。ただし、分担できる人がいないと、画餅となってしまうだろう。
中断が多いことに対しての1つのアイデアは、教頭が事務作業などに従事する「集中タイム」を日中に設けることだ。例えば、14時~15時半の間の電話や来客はほかの職員で担う。よほど緊急性の高いもの以外は教頭に取り次がない。教育委員会にも電話をかけてくるな、という約束を取り付けてはどうだろうか。
評価の問題にもメスを入れるべきだ。問題提起や問題解決に積極的な教頭を評価する仕組みにする。くれぐれも教頭個人の能力や仕事のスピードの問題に矮小化してはならない。それらも改善の余地はあるだろうが、教頭の業務そのもののあり方や周りの仕事の振り方、組織体制などが影響している問題なのだから。簡単な問題ではないが、今すぐにでも取りかかれるものは多い。
(注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)
執筆:妹尾昌俊
東洋経済education × ICT編集部
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