教員に残業代出ない理不尽な法律「給特法」の改正、廃止機運は高まるか 学校の「ブラック化」に一石投じる裁判の行方
2021年10月に下されたさいたま地裁の一審判決は、この訴えを棄却した。1つ目の長時間労働は自発的行為ではなく労働時間であり、377時間23分相当の労働があったと認めた。だが2つ目については、授業が入っていない空きコマや、子どもたちの下校時間と就業時間との間などは「働いていない時間」として労働時間から差し引き、正味の労働時間は32時間57分であり補償に値しないとしたのだ。髙橋氏はこう話す。
「民間の労働裁判なら、正規の労働時間の中から働いていない時間を精査し差し引くことはありえません。しかも、差し引かれた末の労働時間が仮に33時間弱だったとしても、法定労働時間からすれば4日分以上になります。飲食店でいえば、たとえラーメン1杯でも無銭飲食をしたら罪に問われるのに、これほどの時間をタダ働きさせて違法ではないと言うのには無理がある。控訴審で、一審判決の問題点をしっかりと審理し、公正な法律判断が下されることを期待しています」

(撮影:風間仁一郎)
大阪府立高校教員の長時間労働訴訟に続き、田中まさおさんの裁判でも教員側が勝訴となれば、給特法改正や廃止の機運が高まりそうだが、一筋縄ではいかないだろう。給特法の改正や廃止によって超勤手当の支払いが義務づけられると、そのための予算を確保する必要があるからだ。
「教員の時間外労働に対価を払うためには、年に9000億〜1兆数千億円が必要になるといわれています。財務省としては財政規模を拡大するわけにはいかないので、今ある財源でやり繰りさせようとするはず。そうなると超勤手当を捻出するために、基本給を減らす。基本給が減れば生活が苦しくなるので、教員が望んで時間外勤務をするようになるという流れが生まれる。この仕組みは民間企業の常套手段で、これを財務省が戦略的に利用する可能性は否定できません」
学校に民主主義を取り戻さない限り、働き方改革は進まない
髙橋氏は、給特法の改正や廃止には3つの欠かせないポイントがあるという。
「1つ目は、全国どの地域で働いても基本給は一定水準以上を維持しなければならないという、教員給与基準法を作ること。2つ目は、時間外勤務が発生すること自体を防ぐために、義務標準法を改正して教職員定数を改善すること。3つ目は、民間労働者と同様に、労働基本権(団結権、団体交渉権、団体行動争議権)を認めること。労働基本権を与えないことで、教員が労働条件や業務内容に言及する余地を奪い、無定量な労働時間を生んできたため、労働基本権の回復は不可欠です」
だが、この3つを踏まえて給特法が改正あるいは廃止されても、教員の長時間労働に歯止めがかかるとは限らない。なぜなら「給特法は教員の過酷な労働問題の先鋭化された氷山の一角にすぎない」と髙橋氏は指摘する。
「例えば、2000年の学校教育法施行規則改正を受けて、職員会議はこれまでの議決機関から校長の補助機関へと位置づけが明確化されました。つまり、教育委員会や校長が決めた業務を受け入れる場となり、先生がストップをかけられなくなった。先生が時間外で働くときにも本人の同意は必要なく、仕事を引き受けるかどうかも意見を述べる機会がありません。ですから、教員の時間外勤務が自発的行為と言うのは妄想にすぎません。これでは、働き方改革に積極的な校長であれば、長時間労働が解消されるかもしれませんが、そうでなければ過酷さが増すばかりです」
まるで「校長ガチャ」だが、教員を忙しくさせる要因に「学習指導要領」も挙げられる。各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準を文科省が定めたものだが、新学習指導要領では英語やプログラミング教育の導入など、授業時数や指導内容が増えている。