黒田総裁「金利を引き上げるつもりは全くない」 賃金の上昇を伴う物価安定目標の実現は可能
日本銀行の黒田東彦総裁は21日、イールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)政策の下で「金利を引き上げるつもりは全くない」と述べ、日米金利差などを背景に24年ぶりの円安が進む中でも金融緩和を継続する意向を改めて示した。金融政策決定会合後に記者会見した。
円安止めるためには大幅な利上げが必要
「今の円安はドルの独歩高」とした上で、「金利をちょこっと上げたらそれだけで円安が止まるとは到底考えられない」と説明。止めるためには大幅な利上げが必要になり、「経済にすごいダメージになる」との認識を示した。緩和を継続することで「時間はかかるかもしれないが、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を実現することは可能」だとしている。
長期金利の上下0.25%の変動幅変更も否定した。上限0.25%とするYCCの厳格運用が債券市場の機能度低下につながっているが、黒田総裁は現行の変動幅の範囲内であれば「機能度をある程度確保しつつ、金融緩和効果を発揮させることができる」と説明。「それを超えてどんどん機能度のために金利を上げてしまうと金融緩和にならない」と語った。
異次元緩和の後ろ盾だった安倍晋三元首相死去の影響については、「私の立場からはコメントを控える」とし、「物価安定の目標の持続的・安定的な形での実現を目指し、金融政策を実施していく考えに変わりはない」と述べた。
黒田総裁の発言を受け、東京外国為替市場では円売りが優勢となり、1ドル=138円台後半まで円安が進んだ。
他の発言
- 市場機能度のために金利上げれば金融緩和にならない
- 予想物価は中長期も上昇、価格転嫁広がっている。価格転嫁は国際商品市況の上昇を反映しており、景気の下押しになる
- 価格転嫁進んでいるが、一部の輸入物価の上昇分だけ。物価観は完全に変わったわけではなく、まだ不十分
- 海外経済はリセッションやスタグフレーションまでいかない。今の時点で世界的な不況を前提にする必要ない
- 6月の国債購入増は金融緩和を強めたわけではない。YCCに合わない投機的な動きに対応
- 現時点で金融システムの安定性は十分にある。米金利上昇に伴う金融機関の含み損の範囲は限定的
- 豪中銀のYCCレビューは全体としてバランスとれている。海外中銀の正常化への慎重姿勢をYCC修正時の参考にしたい
日銀は現行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和を維持した。経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、2022年度の消費者物価(生鮮食品除くコアCPI)は前年度比2.3%上昇(従来は1.9%上昇)に上方修正した一方、実質国内総生産(GDP)は2.4%増(従来2.9%増)に引き下げた。
日銀が現行緩和維持、円安でも独自路線-22年度物価見通し2%超 (3)
他の主要中央銀行がインフレ抑制のため金融引き締めに動き、24年ぶりの円安が物価を押し上げる中、緩和を続ける日銀の独自路線が際立っている。欧州中央銀行(ECB)は21日に11年ぶりの利上げを決定する見通しで、来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)では4会合連続の利上げが見込まれている。
(黒田総裁の発言を追加して更新します)
More stories like this are available on bloomberg.com
著者:伊藤純夫、藤岡徹
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら