インドで1位のスズキ「5位のトヨタ」と提携の訳 小型車のスズキ×電動化のトヨタが生む果実

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このマルチ800の大ヒットは、インド市場の特異性にも理由が挙げられる。

新興国マーケットは、国によって売れる製品が異なる。安くて小さなクルマが売れる国もあれば、見栄えのよい中型車以上が売れるという地域もある。「安く小さなものがいい」というのがインドであり、「見栄えのよい大きなクルマ」が求められたのが、タイであったりするのだ。

筆者も2014年にインド・モーターショーの取材でデリーを訪れたことがあるが、そのときも幹線道路を埋め尽くしていたのは小さなクルマばかり。小さな3輪のタクシー「オートリキシャ」も、非常に多かった。

走る車のほどんどが小型車、そしてスズキ車だ(2014年、筆者撮影)

そうした小さなクルマが、3車線道路の車線を無視して、横4~5列に並んで走っているのに驚かされた。小さなクルマばかりだからできる荒業だろう。新興国ならではの混沌さが印象に残っている。

そんなインド市場に、スズキは日本の軽自動車を仕立て直したクルマを送り込んできた。今もインドのマルチ・スズキ・インディアが販売する主力車種は、アルトや「ワゴンR」なのだ。軽自動車メーカーとして歩んできたスズキにとって、小さくて安いクルマは得意中の得意。だからこそ、インドでのシェアを伸ばすことができたと言える。

デリーで見かけた現地仕様の「ワゴンR」(2014年、筆者撮影)

また、インドは欧米とも日本とも異なる文化と社会構造を持つ。労使関係も難しい。1980年代にインドに進出してきたスズキでさえ、2012年に死者が出るほどの労働争議が発生している。当時で約30年もの経験を積んだスズキでさえ火傷するほど、インドは難しいというわけだ。

そんな手ごわいインド市場に、トヨタとスズキが手を携えて臨むというのが、今回の協業と言える。

これからは“チーム日本”で

最新の電動化技術をトヨタが提供することで、スズキがより強くなり、その恩恵をトヨタが受けるという形だ。さらにハイブリッドだけでなく、インドへのBEV投入の計画も存在している。

2014年に取材でデリーに着いたときの第一印象は「埃っぽくて空気が悪い」だったのだが、今もインドの都市部の大気汚染問題は深刻だ。都市に住む人の健康面からも、電動化が求められている。そういう意味でも、トヨタとスズキの協業によるハイブリッドやBEVの投入はタイムリーと言えよう。

かつて、トヨタとスズキはダイハツを間に敵対関係だった時代もあった。しかし、時代が変わり仲間となった今は、両者の得意を生かした新たな可能性が生まれている。“チーム日本”によるインドでの活躍に注目したい。

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鈴木 ケンイチ モータージャーナリスト 

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すずき けんいち / Kenichi Suzuki

1966年生まれ。茨城県出身。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。レース経験あり。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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