「肉の生食をやめられない日本人」に欠けた視点 「新鮮だから刺身で食べられる」なんてことはない

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牛の腸管内に存在するO157が逆流してレバーに侵入するという見立てもあるが、いずれにしてもレバー表面や内部にO157が存在する可能性はいまなお排除できず、それゆえ牛レバーの生食は規制が外せないままとなっている。

ちなみに牛の内臓にはO157だけでなく、ギラン・バレー症候群の原因菌でもあるカンピロバクター汚染のリスクもある。農林水産省の調査では牛は直腸(テッポウ)のほか、レバー、第4胃(ギアラ/アカセンマイ)などから菌が検出されている。

直腸を生やレア焼きで食べさせるという店(や食べる人)はさすがにいないだろうが、レバーやギアラ(アカセンマイ)もきっちり火を入れるべき。どちらも上手に加熱すれば、味わいも食感もグッと膨らむ。

厚生労働科学研究食品安全確保研究事業「食品製造の高度衛生管理に関する研究」によれば、牛レバーのカンピロバクター汚染は11.4%(236検体中27検体)と報告されている。レバーは火の入れ方が難しい部位だが、精妙な加減の焼きを身につける好機と捉えて焼きのトレーニングに励みたいところ。

たまに「新鮮なレバーだから刺身で食べられる」としたり顔で言う人がいるが、そういう“推し”活動はなんとかやり過ごしたい。「新鮮≒刺身で食べられる」という方程式はレバーをはじめ、肉には当てはまらないのだ。程度の差こそあれ、状態のいい肉は冷たい刺身よりも火を入れたほうがうまくなることが多い。そもそも冷やすのは保存のためで、温めたほうが味も香りもひき立つのはほとんどの食材に共通する。

ちょっと古くて、首をひねりたくなるような常識はいち早くアップデートしておきたい。

日本の肉食文化はなぜゆっくりとしか進化しないのか

日本人が大っぴらに肉を食べるようになったのは明治になってからのこと。公式には日本人の肉食史はせいぜい160年ほどしかない。肉食の歴史が長い欧米では、そこにあるリスクを体感として知っているからか、少なくとも現代では内臓肉を生食するという習慣はほとんど見られない。

対して肉食歴の短い日本人は、刺身文化を肉食に持ち込んでしまい、焼肉店で「焼いて食べてくださいね」と言われたレバーを生食してしまったりする。

長い食文化のなかで「生食=最高」と刷り込まれているのだから仕方がない一面もあるかもしれないが、美食と安全を天秤にかけたとき、基本は「命あってのものだね」になるはずだ。

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