安倍元総理への銃撃が浮き彫りにした暴力の心理 世界一治安のよい日本の危うい善悪バランス

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したがって、この暴挙は安部元首相の命を奪ったにとどまらず、われわれが謳歌してきた社会の安全、治安、言論や思想信条の自由、民主主義などへの許しがたい蛮行である。そして、安全な社会を作り守ってきた先人の努力などにも向けられた銃弾でもある。

この事件を受けて、閣僚や各党の党首などは、街頭演説の予定を相次いで取りやめている。これは模倣犯への懸念など、安全面から見ると致し方ないことではあるが、言論を続けること自体は決してひるんではならない。言論を封じることが卑劣な犯罪の目的であれば、それは容疑者の思うつぼだからだ。

暴力の心理とは

「人間は善か悪か」、これは長い間、さまざまな分野で論じられてきた問いである。現在の心理学では、「人間は善でもあるし悪でもある」ととらえている。アメリカの心理学者ピンカーは、「人間の脳のなかには、われわれを暴力に向かわせる能力がある一方で、協力的で平和的なものに向かわせる能力もある」と述べている。

このような「善」と「悪」が、人間の歴史を通して、微妙なバランスを取りつつも、ときには暴力が前面に出ることがたびたびあった。それが繰り返される戦争や犯罪のような現象である。

平和や治安の良さを謳歌している日本社会ではあるが、われわれは常にこのような危ういバランスの上に立っているということを忘れてはいけない。その危うさを今回の事件では否応もなく突き付けられたように感じている。

だからこそ、われわれは暴力や悪の醜さを直視しつつ、それを絶対に許さないと言うことをこの先も何度でも、百万回でも声を上げていきたい。

原田 隆之 筑波大学教授

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はらだ たかゆき / Takayuki Harada

1964年生まれ。一橋大学大学院博士後期課程中退、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校大学院修士課程修了。法務省法務専門官、国連Associate Expert等を歴任。筑波大学教授。保健学博士(東京大学)。東京大学大学院医学系研究科客員研究員。主たる研究領域は、犯罪心理学、認知行動療法とエビデンスに基づいた心理臨床である。テーマとしては、犯罪・非行、依存症、性犯罪等に対する実証的研究を行っている

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