関西を代表するJR新快速、指定席「Aシート」の現状 時速130kmで2府3県を貫く俊足列車の付加価値

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車内は中央ドアを埋めた前後間に特急普通車と同じ座席を並べ、出入口とは透明なガラス壁で軽く仕切ってある。少し背を倒せばゆったりと楽だし、背面テーブルや網袋もあるので飲食やパソコン作業も可。

車内は塞いだ中央ドア部分も含めて特急普通車と同じリクライニングシートがずらりと並び片方は12列、もう一方には11列(写真:久保田 敦)
背面テーブルや網ポケットを備え、Wi-Fiが使えて肘掛先端にコンセントも装備(写真:久保田 敦)

肘掛にコンセントを備え、フリーWi-Fiの環境も整えている。壁はマホガニーに光彩が輝くような洒落たテキスタイルで床も同系色、天井照明も白い一般車両と異なる白熱灯色で温もりがある。かつての中央ドア部は一枚の大窓で、向きによっては壁の席となるが、基本的には窓割と座席ピッチがきちんと合致している点もストレスを感じさせない。

吊手、および荷棚上や天井の広告がこの車両に限ってはない。ただ、それらを排除してスッキリさせたはずの天井だが、吊広告のフレームが一定間隔で残り、ほかにも改装された壁や床に対して“痕跡”が多く見受けられた。気分よくリクライニングさせると自ずと目線が向く部分だけに、もう一歩、踏ん張ってほしかったと思う。

こうした環境をもつAシートの料金は840円。2019年春の登場時は指定席ではなく、空席に座って車掌から乗車整理券を買う方式だったので、ちょっとグレードが高い座席の料金としてワンコイン500円だったが、2020年12月から一部座席に指定席制を導入、指定席料金840円、JR西日本のネットシステム「e5489」からチケットレスサービスを利用すれば600円とされた。首都圏のグリーン料金と異なり距離帯による区分はない。

指定席は、混雑が常習化していた新快速において通勤や行楽利用に向けての着席保証が念頭だった。コロナ禍が襲い密集を避ける意味でのニーズは当初の目的と少しズレていたが、3カ月の試行後も継続され、さらに今改正から特急の全車指定席化の拡大(南紀・北近畿方面)、チケットレス化の拡大と歩調をあわせて1両全車が指定席となった。以後、この5月まではキャンペーン期間として、チケットレス利用が500円に割り引かれていた。なお、夜間で利用が減る時間帯の3号だけは特別に450円であり、500円の割引終了後も同価格は変わらない。

拡大のポイントは車掌2人乗務の人件費か

こうした経緯をたどるAシートだが、新型コロナがなければ拡大話も出ただろうに、全体の利用が急減してしまったため今のところは聞こえてこない。そのためわずか2往復が一日の中に散っている状態で、だから知名度も今一つで、平日朝通勤の3424Aや、複数人数でのニーズが高い土休日は人気があるようだが、ほかは空いている。

ただ、まん延防止等重点措置が解除されて以降、急速に人々の往来が戻ってきている。それならば今後の増収策として、改めて考えられるかもしれない。ただし、決め手となるのは車両改造費などではなく、この車両に専従する車掌、つまり最後部で運転を扱う車掌との2人乗務をどう捉えるか、という点にかかっているように思われる。

阪神間は尼崎と、六甲の山並みを見ながら芦屋に停車して三ノ宮。新大阪駅以東から乗っていた人が1人、2人と降りるが、大阪あたりからの乗客はまだ乗り続ける。スマホアプリでe5489を常用する人はともかく、そうでなければ、840円は最近各社が観光列車に適用している高めの料金だから、阪神間20分程度に利用する人は少ない。

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