整形界には明確なヒエラルキーがあり、ピラミッドの上位には数千万もの大金を投じる強者もいるという。真波さんは「彼女たちに比べたら、自分なんてまだまだ」と謙遜するが、整形垢の中でも彼女がいるのはディープな界隈で、「これから二重の埋没手術をします!」といったライトな層が集う場ではない。
そこでは派手に広告をばらまく大手クリニックは“整形初心者を騙すための場所”という思想があり、個人クリニックや韓国の整形情報が蔓延しているという。そこでろくに課金もしない人がさかんに特定のクリニックを推していたら「あの人、ステマじゃないの?」と疑われ、“炎上”につながる。
本気の情報を交わし合う場でステマなどもってのほか。真波さんはクリニックに請われてモニターを引き受けても、フォロワーのためになる情報を積極的に出しているという。
彼女は自身が体験した無料モニターの実態も話してくれた。
本来なら35万円かかる二重切開の費用が浮いたが、通常は1時間ほどで終わる手術が5時間もかかり、「すごく怖い思いをした」という。
実は彼女の執刀医は新米で、ほとんど経験のない人だったのだ。無料モニターにはSNSでクリニックのPRをする体験モニターと、手術の練習台になるモニターがあり、真波さんの場合は後者だった。だが、彼女は手術台に載ったあとにそれを知った。元から「執刀医はこちらで決めます」とは言われていて、誰でもいいとは思っていたが、まさか新人の医師とは計算外だった。
驚いたものの、時すでに遅し。“まな板の鯉”状態の真波さんは、唇を噛みしめた。
「どの筋肉を切るのかわかりません!」
「いよいよ手術開始というとき、ベテランの先生が新人医師の横に立って“じゃ、やり方教えるね”とか言うんです。新人は新人で“すみません! どの筋肉を切るのかわかりません!”とか、“ああっ!わかりました! 完全に理解しました!”とか言ってて、術後は鼻のほうまでパンパンに腫れるし、私の二重、これで終わったなと思いました。埋没はやり直しがききますが、切開はやり直しがきかないし、二重って1ミリでも違うとバランスが全然変わってしまうので。まわりの人にも“失敗しました”って言ってたんですが、なんとか治ってすごくうれしかったです。
今もまだ、その手術のダウンタイム中なのだという。
ダウンタイムには気分的にハイになるときと鬱になるときがあり、“整形者”たちはそれを“術後ハイ”や“術後鬱”と呼んでいる。術後、麻酔が残っている間は達成感に胸高鳴るも、やがてその気持ちは鬱に転じる。「失敗したかも」と悩み、傷の痛みと入浴できない不快感が相まって、沈んだ気分に拍車をかける。
真波さんも、「こればっかりは何度整形しても慣れませんね。“今回はダメだな”って、毎回思ってます」と漏らした。
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