スクープ!日経「テレ東天下り」に物言う株主がNO 株主提案には「日経が最も恐れる男」の名前も

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そうした人たちではガバナンス強化に不十分とみて、リムが社外取締役の候補として挙げたのは阿部重夫氏。1973年に日経記者となり、欧州総局ロンドン駐在編集委員や『日経ベンチャー』編集長などを務めて1998年に退社した。

彼の名前は日経グループのガバナンスを語るときには欠かせない。2003年に当時の鶴田卓彦社長による支配を崩壊させた立役者の一人だからだ。同年1月には、日経新聞のベンチャー市場部長(当時)だった大塚将司氏が社員株主として鶴田氏の解任動議を提出した。子会社での融通手形操作によって巨額の損失が出ていたことと、会社の接待費を不適切に使用した疑惑がその理由だった。

内外の批判を受けて、鶴田氏は会長、さらに相談役に退いたが、この過程で大きなインパクトを与えたのが、阿部氏が編集長を務めていた月刊誌『選択』での報道だ。鶴田体制の実態を暴露した連載では、赤坂のクラブの密室でのやりとりまで生々しく再現。日経社内を震撼させた。

「リベンジではなく、リデンプション」

現在ウェブメディア「ストイカ・オンライン」の編集代表を務める阿部氏には、日経社内に今でも多くの“信奉者”がいる。現役のメディア人、かつグループの内部情報を豊富に持つ阿部氏は日経経営陣にとって最も恐ろしい人物のはずだ。

株主提案の取締役候補を引き受けた理由を阿部氏に質問すると、「これはリベンジではなく、リデンプションです」という短い回答があった。リデンプションとは「義務の履行」を意味する言葉。そこには、日経グループという“古巣”の改革に向けた静かな意気込みが見てとれる。

東洋経済の取材に対し、テレ東HDは「当社は、LIM JAPAN EVENT MASTER FUND(リム)から2022年6月に開催予定の第12回定時株主総会における株主提案書を受領しました。内容については精査中です」と回答した。一方のリムは「個別の投資先に関してはお答えできない」とする。

今後の注目点は、6月16日に予定されるテレ東HDの株主総会に向けてリムの提案にどれだけの支持が集まるかだ。

リムの平和不動産への株主提案は2021年6月の総会で否決されたものの、2022年に入って同社は指名委員会等設置会社への移行を決めた。鳥居薬品の2022年3月の総会に当たり、議決権行使助言会社のISS社は天下り廃止の議案への賛成を推奨していた。「天下り批判」は機関投資家の支持を得やすく、そこがリムの狙い目だろう。

【2022年4月16日9時35分追記】初出時の総会の記述を修正しました。

テレ東HDに対する株主提案には、企業が純粋な投資目的でなく、取引先との関係維持などのために持っている政策保有株の放出も盛り込まれている。同社は100億円を超える政策保有株を持っており、その中には、住友不動産株のように2020年度に新たに買い増した例もある。また、リムはテレ東HDに対し、過剰資本解消のため2021年度の純利益をすべて配当に回すよう求めている。

上場企業のガバナンスの透明性確保は、日経グループのメディアが繰り返し訴えてきたことだ。リムの株主提案はその言論の一貫性を問うたものだけに、真剣に対応せざるをえない。5月半ばまでになされるだろうテレ東HDの取締役会意見の表明が待たれる。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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