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『命に〈価格〉をつけられるのか』 『社会思想としてのクラシック音楽』『博覧男爵』ほか

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算出困難だが参考にはなる 五輪も費用便益の議論を
評者/北海道大学大学院教授 橋本 努

『命に〈価格〉をつけられるのか』ハワード・スティーヴン・フリードマン 著南沢篤花 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] Howard Steven Friedman 1972年生まれ。米ビンガムトン大学で応用物理学の学士号を、ジョンズ・ホプキンス大学で統計学の修士号と生体医工学のPh.D.を取得。データサイエンティスト、医療経済学者、文筆家。コロンビア大学准教授でもある。

生命保険の保険金額や民事訴訟での賠償額など、命が損なわれたときの代償は誰がどう決めるか。哲学的に考えると、価格をつけること自体が奇妙にみえるが、人の命には慣習的に値札が付いている。とはいってもその値は、しばしば怪しい計算方法に基づいているのが現実だ。

本書はそんな事例をつぶさに検討して、「命の価格」の矛盾をあぶりだしていく。例えば米国での同時多発テロ事件で、3000人近くの命が失われたとき、政府は航空業界を救うために犠牲者の家族に特別な補償金を支払った。その任務に当たったファインバーグ(元連邦検事)は、最終的に次のような方針を示した。

まず犠牲者の家族には一律で25万ドルを補償し、配偶者がいる場合は追加で10万ドル、扶養家族がいる場合はさらに1人当たり10万ドルを補償する。加えて犠牲者の予想生涯収入を考慮し補償金を上乗せする。ただし予想される年収の上限は約23万ドルとする。およそ以上のような計算式で、犠牲者の家族に支払った最高額は700万ドルとなり、最低額の25万ドルとのあいだに30倍近い差が生まれたという。

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