実証的研究手法に感服 信仰と経済の複雑な関係
評者/中央大学教授 江口匡太

[Profile] Robert J. Barro ハーバード大学経済学部教授。専門はマクロ経済学、とくに経済成長についての理論・実証分析に定評。著書に『内生的経済成長論Ⅰ・Ⅱ』『バロー マクロ経済学』など。
Rachel M. McCleary ハーバード大学経済学部講師、フーバー研究所シニアフェロー。専門は宗教の政治経済学。社会学、人類学の手法を用いる。近年は意識と道徳心理の関係に注目している。
日本では宗教に対して身構える人が多い。常識とかけ離れたカルト集団や過激な原理主義を見れば距離を置きたくなるし、他人の信仰に口出しするのは余計なお世話とも言えるので、自(おの)ずと触らぬ神に祟(たた)りなし、となる。
しかし、特定の宗教を信仰していなくても、心霊的な存在や死後の世界を信じる人は多いのではないか。ナンズと呼ばれるカテゴリーに含まれるこれらの人も広い意味では信仰心を持っていると言え、日本はナンズが比較的多い国に分類される。
どういう環境で人は宗教や信仰心を持つのか、反対に宗教や信仰が豊かな社会経済の形成を促すのか、本書は定量的な研究成果を中心に解き明かす。宗教団体がどのように組織を維持、拡張してきたのかについて、宗教戦争を戦ったカトリックとプロテスタントだけでなく、イスラム教、チベット仏教にも言及する。

本書によれば、礼拝や集会への参加など、宗教活動に時間を費やせば経済活動にかける時間が減るので経済成長には負の影響をもたらすが、信仰が深いほど経済成長に正の効果をもたらすという。ダイエットは未来があると思うからするのであって、地球最後の日にする人はいない。死後の世界を信じる人ほど、明日以降のことを考えるので今日我慢する、それが経済成長を促す。が、信心深い人は宗教活動に多くの時間を費やす。正反対の2つの効果があるので宗教の経済成長への効果ははっきりしなくなるのだ。
この記事は有料会員限定です。
東洋経済オンライン有料会員にご登録いただくと、有料会員限定記事を含むすべての記事と、『週刊東洋経済』電子版をお読みいただけます。
- 有料会員限定記事を含むすべての記事が読める
- 『週刊東洋経済』電子版の最新号とバックナンバーが読み放題
- 有料会員限定メールマガジンをお届け
- 各種イベント・セミナーご優待