『アマルティア・センの思想 政治的リアリズムからの批判的考察』 『おバカな答えもAI(あい)してる 人工知能はどうやって学習しているのか?』ほか
全体像を批判的に評価し、その弱みの補強を提起
評者/北海道大学大学院教授 橋本 努
ノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・センは、多彩な分野を横断する希有な学者である。社会的選択理論、経済哲学、飢餓の実証研究や経済開発論など、さまざまな研究で世界的評価を得てきた。近年では民主主義や人権を巡って踏み込んだ議論を展開しており、政治思想の観点からも関心が集まっている。
本書はそんな大思想家の全体像を批判的に描いた労作だ。とくにスリリングなのは、若きセンが既存の厚生経済学を内在的に批判して、「ケイパビリティ」(あえて訳せば潜在能力)という独自の概念を練り上げていく場面。本書はその過程を生き生きと描く。
センは、貧困問題に関する実証研究でも大きな成果を上げた。センによれば、飢饉の多くは食料不足で生じるのではない。むしろ貧困に対する誤った考え方や制度ゆえに生じる。悪の根源は思考習慣や制度であり、その克服のために、センは独自の貧困指標を提案したりもしている。
ところがセンのケイパビリティ論や民主主義論は、どうもこうした具体例に適用するとなると歯切れが悪い。
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