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『アマルティア・センの思想 政治的リアリズムからの批判的考察』 『おバカな答えもAI(あい)してる 人工知能はどうやって学習しているのか?』ほか

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全体像を批判的に評価し、その弱みの補強を提起
評者/北海道大学大学院教授 橋本 努

『アマルティア・センの思想 政治的リアリズムからの批判的考察』ローレンス・ハミルトン 著/神島裕子 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile]Lawrence Hamilton 1972年、南アフリカ共和国ダーバン生まれ。英ケンブリッジ大学で博士号を取得後、現在は南アのウィットワーテルスランド大学政治学部教授とケンブリッジ大学政治学国際学部教授を兼務。専門は政治理論。

ノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・センは、多彩な分野を横断する希有な学者である。社会的選択理論、経済哲学、飢餓の実証研究や経済開発論など、さまざまな研究で世界的評価を得てきた。近年では民主主義や人権を巡って踏み込んだ議論を展開しており、政治思想の観点からも関心が集まっている。

本書はそんな大思想家の全体像を批判的に描いた労作だ。とくにスリリングなのは、若きセンが既存の厚生経済学を内在的に批判して、「ケイパビリティ」(あえて訳せば潜在能力)という独自の概念を練り上げていく場面。本書はその過程を生き生きと描く。

センは、貧困問題に関する実証研究でも大きな成果を上げた。センによれば、飢饉の多くは食料不足で生じるのではない。むしろ貧困に対する誤った考え方や制度ゆえに生じる。悪の根源は思考習慣や制度であり、その克服のために、センは独自の貧困指標を提案したりもしている。

ところがセンのケイパビリティ論や民主主義論は、どうもこうした具体例に適用するとなると歯切れが悪い。

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