「安定性が不安定性を生む」 経済改革考える際の基盤に
評者/北海道大学大学院教授 橋本 努
2008年の世界金融危機のとき、英国のエリザベス女王は「なぜこの危機を誰も予見できなかったのですか」と素朴な疑問を呈した。当時支配的だった「効率的市場仮説」などのマクロ経済理論はこの危機を説明する力を持たず、経済学者たちの威信は低下した。
だが、一部の経済学者は、この金融危機が「ミンスキー・クライシス」であると見抜いた。1996年に世を去ったミンスキーが生きていれば、英女王に自らの理論の正しさを説明したであろう。
本書はミンスキーの弟子によって書かれた簡易な入門書であり、異端経済学者の全貌を鮮やかに伝えている。
ミンスキーの経済哲学は、「安定性が不安定性を生み出す」という言葉によって表される。例えばある規制の下で金融市場が安定すると、プレーヤーたちは規制の抜け穴を見つけたり、イノベーションを生みだしたりする。あるいは金融危機の際に政府が「最後の貸し手」として助けてくれるとなると、プレーヤーたちはいっそうリスクを取るようになる。結果として金融市場は脆弱になるというのがミンスキーの説明である。
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