ナチスドイツを研究したユダヤ人哲学者。彼女が見た大衆社会の怖さとは。
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1906~75年。全体主義を生み出した大衆社会を徹底的に分析。ナチス戦犯の裁判記録で「悪の陳腐さ」を描き論争にもなった。主著は『全体主義の起源』『人間の条件』。(イラスト:安彦良和)
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メディアは大衆を欺いて動員する支配体制を全体主義として批判する傾向があります。今年1月のトランプ氏支持者による米連邦議会乱入事件や、中国やロシアでの露骨な統制社会、さらには西側諸国における情報統制の動きも、全体主義やファシズムとして批判されることがあります。
しかし、そこに落とし穴はないでしょうか。ドイツ出身のユダヤ人の思想家ハンナ・アーレントは主著『全体主義の起源』で、そうした議論とは異なる考察を行いました。ナチスの台頭を恐れて米国に渡りましたが、強制収容所でのユダヤ人の大量虐殺に衝撃を受け、「そのようなことがなぜ可能になったのか」と考えました。
アーレントが指摘するのは、全体主義と国民国家崩壊との関係です。国民国家は近代欧州で主権国家のシステムが作られて始まりました。具体的には、社会の構成員はさまざまな階級に区分され、それら階級(政党)の政治的要求は議会を通じて吸い上げられます。上から統合するのが国家、そして統合された社会の構成員が国民ということになります。
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