貧困の実態を内部から活写
自助努力が処方箋なのか?
評者/東洋英和女学院大学客員教授 中岡 望
[Profile]Darren McGarvey/スコットランドのグラスゴー南部にあるポロックに育つ。作家、コラムニスト、ラッパーであり、社会問題へのコメンテーターとしてメディアにも出演。本書は初の著書で、2017年に刊行されるやサンデー・タイムズ紙ベストセラーリストのトップ10入りを果たした。
貧困は世界が直面する深刻な問題である。今年のノーベル経済学賞は、世界の貧困問題を解決する実践的な手法を研究する3人の経済学者に与えられた。貧富の格差は拡大し、もはや放置できない水準にまで達している。
貧困を巡ってはさまざまな調査や研究が行われてきた。あたかも、サファリ・パークで野生動物を遠くから見るように貧困を外から観察し、分析するものであった。著者は、自らが経験してきた貧困の実態を、その内部から赤裸々に描き出している。
日本では貧困はなかなか可視化されないが、欧米では貧困にあえぐ下層階級は特定の貧民街に集中し、「郵便番号は社会階級を示す目印」となっている。また貧困の問題はコミュニティの問題であると同時に階級の問題でもある。著者はスコットランドのグラスゴーにあるポロックという労働者階級が住む町で崩壊家庭に生まれる。本書は、貧困の中で育ち、18歳でホームレスになり、やがて貧困から脱し、作家や社会問題を論じる評論家として自立した著者の「悲惨な回顧録」である。
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