曰く、友情はわたしの宗教。他者に無関心な日本人へ
評者・福井県立大学名誉教授 中沢孝夫
いい教師と出会うこと以上の幸運があるだろうか。ホロコーストの実体験を描いた『夜』の作者、エリ・ヴィーゼルの本職は大学教授で、本書は“教室”という空間での師弟のやりとりから、愛(まな)弟子がヴィーゼルの考え方をまとめている。
アウシュヴィッツ強制収容所へ移送されたヴィーゼル一家の母親と妹はすぐに殺され、父親は強制労働で死亡した。戦前の欧州にいたユダヤ人950万人のうち600万人が殺されたが、ヴィーゼルはかろうじて生き残り、ジャーナリスト、教師になった。それは「記憶」を伝えるため、そして「学生を単なる受け手に留めおかず貢献者へ位置づける」ためである。確かに教師と学生は互いを必要とする。
ホロコースト以降もカンボジア、ルワンダ、ユーゴスラビアなどで大量虐殺が続いた。これらは、人類史の忘れてはならない一側面だが、本書は、「絶望が人から人へ広がるものならば記憶も同じだ。過去の記憶、大切にしていたものの記憶」、さらには「切望する未来にかんする記憶すらある」と記す。そして「証人の話を聞く人は証人になる」と。
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