成城大学 教授 津上英輔氏に聞く 『危険な「美学」』を書いた

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つがみ・えいすけ 1955年生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院修了、博士(文学)。独フライブルク大学で音楽学専攻。同志社女子大学専任講師、成城大学助教授を経て現職。著書に『あじわいの構造』『メーイのアリストテレース『詩学』解釈とオペラの誕生』、『新 西洋音楽史』(共訳)。(撮影:山内信也)

まどわし、負を正に転換、美の追求が悲劇をも招く

多くの人にとって心地よいものであろう美は、人を殺すこともある。彫刻家にして詩人、高村光太郎の戦争賛美詩「必死の時」は、死地に赴く若人の背を押した。そして、スタジオジブリのアニメ『風立ちぬ』には戦争賛美詩よりも問題があると言われたら、驚かずにいられるだろうか。

危険な「美学」 (インターナショナル新書)
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──美学とはどんな学問ですか。

美とは何か、そして芸術とは何かを考える学問です。私は美を捉える感性の働きを重視しています。「切ない」という言葉の意味の変遷を例にしましょう。もとは「出口がない」という物理的状況を表したのが、人の感情に転移して鬱々とした気分を意味するようになり、さらに現代ではプラスの意味に使われる。これは昔の辞書やネットでの用法で検証できます。客観的なデータに基づいて、人の感性を解明できるのです。

──どう社会の役に立ちますか。

2000年ごろにノスタルジアという言葉の研究をし、語源的には帰郷痛=病気が「懐かしさ」という美に類するものに転化したのを知ったときから、美の内包する負の面を意識するようになった。例えば、対峙する軍隊は互いに敵国の懐かしい歌を大音量で流すことがあります。よき時代を思い出させ兵士の戦意をそぐのが目的です。この場合、歌自体が悪いわけではなく、政治的に利用されている。研究を進めるうち、美に類するもの自体が悪い場合もあると思うようになりました。政治的利用と違い、その危うさは美学的見地からじゃないと警告できないと思います。人が美の危険に気づいて自分の行動を律し、他人の行動を評価することにつながれば、美学が社会の役に立ったといえるでしょう。

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