あなたの考えが正しいことを示す例ばかり集めてはいけない。
『ファクトフルネス』は、人が間違える脳の機能として「単純化本能」も挙げている。
1つの視点だけでは世界を理解できないが、人は何か1つの道具を使えるようになると、それを何度でも使いたくなる。1つの問題を深く掘り下げると、その問題が必要以上に重要に思えたり、自分の解がいいものに思えたりすることがあると同書は指摘する。
ここで想起されるのが、日本は「失われた30年」で本当に貧しくなったかという疑問だ。日本はバブル崩壊以降、とりわけ1997~98年の金融危機以後に名目GDP(国内総生産)が低迷し、賃金が伸びなくなった。図表1のような日本独り負けのグラフが示され、その『戦犯』として金融政策を担う日本銀行が糾弾される。2013年に現在の黒田東彦総裁による「異次元金融緩和」へのレジーム転換がなされたのは記憶に新しい。
だがこれらの日本独り負け論は、GDPという1つの道具に頼ったものでしかない。経済を計る標準の物差しであるGDPを用いた国際比較や分析は国内外で大々的に行われている。そのため、この視点による日本の問題だけがクローズアップされる側面がある。
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