所得や雇用が健康に影響する事実は、日本でも明らかになってきた。対策には何が必要なのか。国内を代表する研究者2人に聞いた。
近藤 尚己 東京大学大学院 医学系研究科准教授
日本にも健康格差が存在していることは、複数の研究で確認されている。今日本に必要なのは、健康格差をこれ以上拡大させず、縮小させていくうえで効果的な手段を明らかにすることだ。
いわゆる社会的弱者は、日々の生活におけるストレスでいっぱいいっぱい。数年後、10年後も自分や家族が元気でいられるために、今投資をしようという意識を持つことが難しい。それどころか、目の前の苦しみから逃れて刹那的な楽しみを求めるような行動を取りやすい。そういう状況であっても無意識のうちに健康を維持できる環境や仕掛けを作ることが、研究者と行政、そして産業界の課題だ。
自省を込めて言うと、従来の公衆衛生対策は、幅広い層への「運動をしよう、野菜を食べよう」といった知識啓発や、リスクが高い人への個別指導に終始しがちであった。しかしそこにマーケティング手法を取り入れれば、もっと効果的にアプローチできるだろう。
たとえば食品。厚生労働省はこれまで主に栄養成分表示の普及・拡大に取り組んできた。パッケージの裏側に小さくカロリーや食塩量などを表示するあれだ。表示を見て健康によいかどうかを消費者に判断してもらいたいのだが、そもそも生活が苦しく健康を気遣うゆとりがない人には無視されてしまう。逆に表示を見たとしても、しっかり論理的に考えて選択するのは、ゆとりがなければ難しい。
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