「ウクライナ戦争」が起こる知られざる深い事情 国際政治記者がストーリーでわかりやすく解説

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カイゾク:戦争で勝てば、国民にリーダーであることを納得させやすくなるわけだ。最近でも、小さな戦争で勝って、カリスマを得ようとしているリーダーたちがいる。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナのクリミア半島を奪って、自分の人気を急上昇させた。中国のリーダーが台湾を攻め取ろうとしているのも、同じ理由だとわしは思っている

:そんな理由で戦争するなんて、なんかひどいね

カイゾク:そうだな。そして、中国で近年リーダーになった人は、戦争に勝ち抜いたわけでもないし、そういうリーダーたちから直接選ばれたわけではない。国民にとってなぜトップとして認めないといけないのか、それまでのリーダーたちよりもわかりづらい人だ

記者に銃を向ける国

カイゾク:それに民主主義をうたっている国でも、選挙でインチキをやる国もある。政府に反対する人を殺したり、牢屋に入れたりして、自分に都合のいいような結果にするんだ。例えばロシアでは、選挙の前に反対派をいろんな手を使っておさえこんで、立候補できなくするというケースが多く聞かれる

:そんなことしたら選挙の意味ないじゃん!

カイゾク:その通りだ。だが実際、そうやって高い地位にとどまり続けているリーダーは世界では結構多い

大樹:でもそんな方法で選ばれた人を、周りの国はリーダーとして認められるのでしょうか? 国と国が仲良くするには、信頼関係が大事なのに

カイゾク:そう、そういうリーダーたちもまさにその不安を感じているだろう。だから、都合の悪いことはできるだけ世界の目から隠そうとする。外部に知られなければ、どんな悪いことをしても世界の国々から厳しい目で見られたりしないからだ

大樹:あ、それでさっき言っていた情報管理が必要になるわけですね

カイゾク:ああ、一般市民が、国がひどい状態であることを世界に伝えるのを防ぐために、SNSとかインターネットを自由に使えないように厳しく制限する。そして情報管理のやり方には、もう1つ、ジャーナリストたちにあまり仕事をさせないようにすることもある

:ジャーナリストって新聞とかテレビとか?

カイゾク:そうだ。こういう場合、国民の不満を押しつぶしていることなど、都合の悪いことを世界中に伝えようとする記者たちは、政府の敵になる。そういう国々では、常に記者の通話は盗み聞きされるし、ひどい時は牢屋に入れられたり殺されたりする

大樹:そんなこと、本当にできるんですか?

カイゾク:これは実際に起こっていることだ。でも、いくら徹底的に情報を管理しても、ひどいことを隠し続けるのには限界がある。全部ではなくても、一部はばれることになる。そうなると、隠そうとしていること自体も批判されるようになる。いずれにしても、記者に銃を向けるような国は、それよりずっと前に自分の国民に銃を向けているわけだ。そして、記者を殺すような国に未来はない、とわしは思っている

田中 孝幸 国際政治記者

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たなか・たかゆき / Takayuki Tanaka

大学時代にボスニア内戦を現地で研究。新聞記者として政治部、経済部、国際部、モスクワ特派員など20年以上のキャリアを積み、世界40カ国以上で政治経済から文化に至るまで幅広く取材した。大のネコ好きで、コロナ禍の最中で生まれた長女との公園通いが日課。著書に『13歳からの地政学』など。ツイッター:https://twitter.com/spiritof1993ya1

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