「ウクライナ戦争」が起こる知られざる深い事情 国際政治記者がストーリーでわかりやすく解説
カイゾク:そうだな。自分を守るために、それに今までの苦労を無駄にしないために、さらに周りの土地をどんどん取っていこうと思うようになる。自分のものにできなくても、自分の言いなりになる子分にしようと思うようになる。しまいには、この紙全体を真っ赤に変えようとするだろう
カイゾクはさらに大きな赤い丸を次々に描き足した。
大樹:それって北方領土も同じでしょうか? だからロシアは、あんな小さな島なのに、日本に還そうとしないんですか?
カイゾク:ああ、それもまったく同じだ
なぜ隣同士仲良くできないのか?
杏:ちょっと待ってよ! 取るとか攻めるとかの前に、周りの国と仲良くすればいいんじゃないの? 隣同士は仲良くしたほうがいいんでしょう?
杏は赤い丸が描かれた紙を手でたたいた。
カイゾク:杏さん、その通りだ。だがこちらが仲良くしようとしても、相手がこちらと仲良くしたくないかもしれない、相手がこの土地を取りたいと思っているかもしれないと疑心暗鬼になるわけだ。陸続きになっているとほかの国から攻められやすいので、なおさらだ
カイゾクは、紙の右上の隅に黒ペンで小さな丸を描いた。
カイゾク:しかし、この黒い丸の国の人々には、このどんどん大きくなる赤い丸はどのように見えるだろうか?
大樹:恐ろしいです。自分のところまで来るんじゃないかって
カイゾク:そうだろう。本人は自分を守るためだけにやっているつもりでも、周りの国からは攻撃的で危険なやつだと見られるようになる。ロシアがクリミア半島を奪ったり、中国が南シナ海の島々を取ろうとしたりしている動きには、こういう心理が働いている
杏:守るためにずっと戦ってなきゃいけないなんて悲しいね。そういうところとはどうしたら仲良くなれるのかな?
カイゾク:それはお互い信用する関係、つまり信頼関係を築くことだ。だが信頼関係を持ち続けることは案外難しい。例えば隣同士の国でちょっとでも戦いが起きて人が死ぬと、信頼関係はかなりのダメージを受ける。普通、国は攻められればそれに抵抗して、争いになるものだ。すると、攻めたほうは『やっぱりやつらは敵だったんだ』と思って、その争いはひどくなる。たとえ隣の国が、今のままの状態で平和を保とうとしていても、そういう記憶が人々の中に残っている限り、その後も争いが起きやすくなる
杏:平和な世界って、口で言うのは簡単だけど結構難しいのね
カイゾク:その通りだ。中国とソ連、どちらも第2次大戦で侵略されて、1000万人をはるかに超える死者を出した。死者数で言うと、日本の4倍以上だ。だから、ほかの国をそんなに信頼していない。そして自分の安全は自分で守ろうとする。そのために、周りの国とうまくやっていけない傾向がある。こういう外国に向かって強く出る国は内部に大きな問題を抱えていて、それから人々の関心をそらそうとしていることもある
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