ENEOS製油所閉鎖に揺れる和歌山・有田の「苦悩」 市内生産の9割消失、「工場閉鎖」が迫る地方危機

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約80年操業を続けてきた和歌山製油所。ここでは協力会社の社員を含め約1300人が働く(記者撮影)
日本の製造業、とりわけ重厚長大産業を中心に国内製造への逆風が強まる中、地域経済を支える工場閉鎖の発表が相次いでいる。
この1月にENEOS和歌山製油所の閉鎖(2023年10月メド)が発表された和歌山県有田市では、市内の製造品出荷額の9割以上が消失する地域存続の危機に瀕する。
『週刊東洋経済』3月22日発売号は「工場が消える 脱炭素が迫る最後の選択」を特集。脱炭素をきっかけに再加速する日本全国の工場閉鎖の実態と、その構造問題に迫っている。工場が消えていくとき、日本の社会は維持できるのだろうか。

ミカン畑が広がる丘から海沿いを見渡すと、赤茶けた工場が広がる。2.5平方キロメートルほどの広大な敷地を作業員の運転するトラックがひっきりなしに行き来する。

和歌山県有田市、大阪の中心部から南へ70キロメートルほど離れた人口3万人弱の地方都市が揺れている。市を支えてきた基幹産業であるENEOSホールディングスの和歌山製油所が、2023年10月をメドに閉鎖されることが決まったからだ。

和歌山製油所の生産能力は同社の原油処理能力の7%に相当する1日当たり12.8万バレル。

1941年の操業開始から、製油所は80年にわたって「当たり前のようにそこにあった」(地元住民)。市の盛衰はこの産業とともにあったと言っても過言ではない。住民は「釣りなどのレジャーも盛んで、若い人の活気が満ちていた」と、重化学工業が盛んだった昭和の時代を懐かしむ。

発表翌日、知事がENEOS本社へ直談判

しかし、人口減少による全国的なガソリン需要の縮小や脱炭素化の潮流は容赦なく襲いかかる。

『週刊東洋経済』3月22日発売号の特集は「工場が消える」です。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

ENEOSをはじめとする石油元売り各社は精製能力の縮小を余儀なくされている。ENEOSはこれまで室蘭(北海道)と知多(愛知)での製造を停止したうえ、根岸(神奈川)でも2022年10月に1ラインを廃止する。

同社の大田勝幸社長は1月25日の記者会見で「サプライチェーンの見直しは続く。ここ(和歌山の停止)で終わりになるかはわからない」と話した。

「私は怒っている。地域に死ねというのと同じではないか」

翌26日、東京・大手町のENEOS本社には和歌山県の仁坂吉伸知事の姿があった。閉鎖の一報は、たまたま公務で東京へ向かっている最中に聞かされた。予定を急きょ変更して大田社長への直談判に臨んだ。

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