鉄道と競合?ヤマトとJAL「国内航空貨物便」の行方 フェリーも高速運航、貨物輸送は大競争時代に

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今回、ヤマト運輸の貨物機運航が予定されているのは首都圏と遠方を結ぶ路線であるが、宅配航空便が定着すれば、関西や中部からの北海道、九州、沖縄方面への需要も考えられるかもしれない。

速力30ノット以上で航行する舞鶴ー小樽間「あかしあ」(筆者撮影)

たとえば、関西―北海道間は貨物需要の高い区間である。JR貨物に対し、フェリーも特殊な船舶が運航している。新日本海フェリーの舞鶴―小樽間「はまなす」「あかしあ」は速力30.5ノット(時速約56km)の高速フェリー、敦賀―苫小牧間「すずらん」「すいせん」も速力時速28ノットを出す。

従来船や瀬戸内海を航行するフェリーが23ノット程度なので、30ノットは大型フェリーとしてはかなり速い。前記4隻は特殊な構造で、エンジンで回るスクリューの先に、舵を兼ねたモーター駆動のスクリューもあり、こちらはエンジンで回るスクリューとは逆の回転で同じ方向への推力を生み出している(二重反転)。スクリューは船の後方へ水をかき出しているが、スクリューの羽に斜めの角度があるので、正確には斜め後方にかき出している。ところが、スクリューの先に逆回転で同じ方向へ水をかき出すスクリューがあることで、水が船の真後ろにかき出され、強い推進力が得られ、高速航行ができる。

高速運航することで、舞鶴―小樽間、敦賀―苫小牧間を2隻で同時刻毎日運航が可能になった。この間は夏季に北海道へ行くライダーなどで賑わうが、主要目的は貨物輸送で、鉄道貨物と競合している。船や鉄道と航空では、扱う貨物の種類が異なるが、ここに航空貨物も参入すれば、貨物の重さや要求される速達度によって輸送手段選択に幅が出る。

東京九州フェリーは船首がレトロなスタイルだが、この形も高速航行に寄与している(筆者撮影)

さらに、2021年からは、新日本海フェリーと同系列の東京九州フェリーが、横須賀ー北九州間をやはり28ノット以上で航行するフェリーを運航する。やはり貨物主体の航路で、こちらも同区間を2隻で毎日同時刻運航を行っている。こちらは二重反転ではなく、近接2軸推進と垂直船首などによって高速航行を可能にしている。

鉄道貨物を取り巻く状況に異変

国内の貨物輸送ではJR貨物が大きな役割を果たしている。しかし、問題がないわけではない。

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2018年、豪雨により広島県内の山陽本線が長期間に渡って不通となり、貨物列車が通過できなくなった。迂回ルートとして、伯備線、山陰本線、山口線経由の貨物列車が運行されたものの、これらの路線はほとんど単線のため、運行できたのは1日1往復で、しかも山陰本線西部と山口線は普段貨物列車が運行しないため、運行許可を得るのに時間を要した。

さらに、新幹線の延伸によって鉄道の本線が次々に第三セクター化され、JR貨物の列車は、何社もの鉄道会社にまたがって運行せざるをえなくなっていて、今後さらにその状況は広がりそうだ。

それだけではない。2030年度に予定される北海道新幹線の札幌延伸によってJR北海道から切り離された並行在来線の経営が沿線自治体に引き継がれないという事態になれば、北海道と本州を結ぶ鉄道大動脈にとって大きな危機を迎えかねない。今までは、鉄道による貨物輸送が充実していたことも、国内航空貨物が参入できない1つの要因であったが、その鉄道貨物輸送の基盤が揺らぎつつある。

谷川 一巳 交通ライター

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たにがわ ひとみ / Hitomi Tanigawa

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40カ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)などがある。

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