日本人は世界でカモにされ、なめられている--『管見妄語 大いなる暗愚』を書いた藤原正彦氏(数学者、エッセイスト、お茶の水女子大学名誉教授)に聞く
──数学者として疑問を感じたわけですか。
デリバティブは確率微分方程式なるものを駆使する。これは大学院修士課程で学ぶような高級な数学。当時、大手銀行でも数学でドクターを取った人はゼロだった。これに対してメリルリンチには100人はいた。数学には、数学的論理を展開する前提というものが必ずあり、この前提が崩れたら、何もかもおじゃんになる。まさにそれだ。
しかし、こういう数式でしっかり計算し、綿密かつ厳密に積み上げてあるから危険は何もないと言われ、皆だまされた。ただ、いつものように日本人もだまそうとしたが、今回ばかりは日本の企業は話がうますぎると、さほど深入りしなかった。だから助かった。
──いつものように日本人をだまそうと……。
日本人は世界からカモにされている。たとえば、英ケンブリッジに留学している長男から昨日メールが来たばかりだ。パリで行われた凱旋門賞の競馬を見に行って、泊まったホテルに、入るときに宿泊代を払ったのに、出るときにまた請求されたという。クレジットカードの控えを証拠に示せて、向こうは観念した。スーパーマーケットのレジでは、お釣りが1ユーロ足りないと抗議したら、渡したと言って聞かなかったそうだ。事前にパリは危ないと、アドバイスはしていたのだが。
パリでは、特に日本人だとなめてかかる。誰もがウソつきだと思って接しないとやられる。フランス語で書かれた請求書に、飲まないシャンパンや、かけていない国際電話の料金を付けたりして、日本人をカモにしてくる。そういう事例をいくつも知っている。パリに行くとけんか、けんかで本当に疲れる。