産業天気図(保険業) 競争激化だが株価回復で株減損縮小し利益回復

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縮小

保険会社の販売競争は依然厳しい状況が続いているが、株価底入れに伴い株減損が大幅に減り利益・財務とも改善する見通しだ。
 損保業界は主力の自動車保険がフリート(企業など大口顧客向け)、個人向けノンフリートとも夏場まで正味収入保険料のマイナス基調が続いている。銀行窓販の寄与もあって火災や傷害保険は堅調だが、自賠責保険の制度変更に伴う上乗せを除く実質的な正味収保は伸び悩み基調が鮮明になっている。事業費率はシステム投資負担はあるが、人件費抑制もあり全体としては緩慢ながらも低下基調にある。損害率は、前期少なかった台風など自然災害が例年並みとなることを前提に、若干上昇を予想する会社が多かったが、これまでのところ予想の範囲に止まった模様。株価が日経平均ベースで3月末の8000円割れから9月末には1万円台乗せに底入れしたことで、少なくともこの9月中間決算では予想よりさらに株減損が縮小した会社が多い。3月末の株価は予想できないが、前期末をさらに大きく割り込むことがないとすれば、前期巨額の計上を迫られた通期末の株減損も縮小し損保各社としては経常利益段階で予想通り増益ないし黒字転換する会社が増える可能性が高まっている。
 生保業界の販売状況は損保以上に厳しい。4~7月までの生保42社合計ベースの新契約高は前年同期比11%減(個人保険ベース)と苦戦が続く。大手生保の関係者の口からは「本当に厳しい」という本音が漏れる。解約・失効高も高水準が続いている模様。非上場会社は、生保協会が月ごとの数字を公開していないため詳細は不明だ。株式を上場しているのは2社だが、大同生命の4−6月累計は前年同期比14%増、太陽生命は9%増となっている。
 予定利率引き下げ法案の報道が消費者の動揺、生保経営への不信を助長した要素が大きいと生保各社は説明しているが、報道が鎮まった8月も下げ止まっていないという生保会社の声も聞かれ、むしろ家計リストラによる影響が長期深刻化しているとの見方も強まっている。今期末の保有契約も業界全体で7年連続の減少に終わる公算が強い。ただ、収益面ではやはり、株価の回復効果が大きい。前期巨額計上となった株式減損は大幅に減少するため、最悪期は脱出する可能性が高い。長期金利上昇による債券価格の下落や円高によるヘッジなし外債での損失などはありうるが、業界全体としては大手生保を中心に、バランスシート面でも改善となる公算が高まっている。
 損保会社で収益を大幅上方修正したのが三井住友海上火災だ。保有株式をETFに組成し売却した結果、億円単位の売却益が発生するためだ。連結経常利益は期首計画の750億円が1310億円に膨れ、ミレアホールディングの650億円の倍に達する予定だ。合併時に立てた政策保有株式の圧縮目標は1年前倒しで達成、株価下落リスクへの対応力向上、もともと強い財務力の一段の強化が進む。
 損保ジャパン、日本興亜損保、ニッセイ同和損保、富士火災など前期赤字組も今期は経常益段階で黒字転換する予定。
 ミレアは、東京海上火災、日動火災とも前半は自動車保険の苦戦が目立つ。8月にリスク細分型保険を発売、新車割引なども導入し巻き返しに入るが、ライバル社も新車割引サービスを拡大するなど収益柱の個人向け自動車販売でも割引競争が激化しており、これが下期以降の収益にどういう影響を及ぼすか懸念材料も出ている。
 もう一つの注目点はニッセイ同和。今期も前半のところ、日本生命の営業戦力との協業(タイアップ)を強化し、トップラインの正味収保で比較的高い成長を続けている。損害率の上昇が気になるが、後半も高い成長を続けていけるかが気になるところだ。
 生命保険会社の上場二社のうち、大同生命は4−6月の四半期開示を見るところ、新契約が前年同期比14%減少と苦戦している。ただ収益面では株価回復もありほぼ期首予想通りの前期並み基礎利益880億円(単独ベース)、前期比倍増の最終利益230億円は確保できる見通し。
 好調なのは同じT&Dグループに属す太陽生命。4月に売り出した新商品「保険組曲」が好スタートを切って新契約は4−6月で62%増となっている。通期でも新商品効果を見込み、新契約は41%増、保有契約高も7%増を予想する。収益面では基礎利益は期首予想を若干上方修正した。株式リスク圧縮などに伴う売却損など多少保守的に見ていることもあり最終利益は期首予想の37億円と据え置いているが、これも今後の株価次第の面もあるが上方修正の可能性もないわけでない。保険会社の収益の特徴は新契約が拡大しても新契約獲得に伴う営業関連費が膨らみすぐ利益貢献しないこと。ただし、新契約の拡大は中期的に収益拡大につながるうえ、同社の場合、死差益がとれる死亡保障性商品にシフトする経営戦略を推進中。新契約に占める死亡保障性保険の比率は今期4−6月期で98%(98年度は52%)に、保有契約高に占める比率も59%(同49%)に拡大し、これが収益拡大につながる。従来短満期の貯蓄性保険が中心だったため、高予定利率の保険が他社よりも早く満期を迎え逆ざや縮小が他社より早く進むことも収益改善を促進する。この死亡保障性商品へのシフトが今下期以降も順調に進めば、3年後をメドに太陽生命の基礎利益段階の収益改善は大手生保を上回るスピードと拡大幅で進捗することが予想される。【大西富士男記者】

(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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