隂山英男氏に聞く、「百ます計算」で同じシートを「使い回す」意図 「徹底反復」が子どもたちにもたらす効果とその方法

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「実は大人でも、スムーズにできない人はたくさんいます。小学3年生程度の計算ができない状態で大人になっているんです。以前、公共の場で計算が大の苦手だったという方から『百ます計算を1カ月くらいやったら急に計算ができるようになり、ものすごく人生が明るくなりました』とお礼を言われたことがありますが、そういう悩みを抱えている人はかなり多いのではないでしょうか」

子どもたちに百ます計算を指導する隂山氏(写真:隂山氏提供)

そうした事態を招かないためにはどうすればいいか。隂山氏は、タイムを測るときから寄り添う姿勢が不可欠だと話す。

「私が学校現場で指導するとき、最低限これだけはやってほしいとお願いしているのは、タイム経過を『1分、1分15秒』などと告知することです。子どもたちのタイムに対して『昨日より5秒早くなった!』『今日は少し落ちたけど、そういう日もあるから気にしないでね』と個別に声をかけてあげるとなおいいですね。そうするのとしないのとでは、子どもたちの意欲に大きな差が出ます」

さらに重要なのは、間違いへの対応だ。「惜しかったね。次はケアレスミスをしないよう丁寧にやりましょう」と言ってしまいがちだが、これはNGだという。

「『ペケがいけない』という価値観で接しているうちは、子どもは伸びません。『間違えてしまった、自分はダメなんだ』と思ってしまいますから。『ペケに出合ってよかった。これをクリアすれば次のステージに行けるよ』という姿勢で接してあげることが大切なんです。実際、勉強というのは難しくなってから、間違えてからが勝負ではないですか。ただ口で言うのではなく、先生や保護者の皆さんがそういう価値観に転換することが、子どもの力を伸ばすカギです」

子どもは楽しく、親や教員はラクになる

タイムを測る時点からしっかり寄り添うのは、子どもたちの基礎力を把握するのにも役立つ。

「タイムが早い子どもにはより高度な指導を、遅い子どもにはゆっくり丁寧な指導をすればいいわけです。例えば、百ます計算の前に、各段の10個の計算である『十ます計算』をするのも有効です」

こういった反復学習を毎日繰り返していくのが、隂山氏の提唱する「隂山メソッド」だ。その実践スタイルの1つが、同氏の指導する学校で毎朝行う「モジュール授業」。15分という短時間で百ます計算、漢字、音読をしていく。前述の田川市の事例以外にも、多くの成果が生まれている。

「私が2015年から指導している岡山県高梁市のある公立小学校には、学力テストが全国平均からマイナス37.8ポイントという児童がいましたが、1年後にはマイナス8.6ポイント、2年後にはプラス7.6ポイントになりました。誇張なく、すべての子どもが伸び、学習に意欲的になったんです」

百ます計算は、低学年のうちに2分以内を達成することを目標としているが、この学校では今や2年生の前半でほぼ全員がミッションをクリア。そうなると子どもたちの中に「やればできる」の自覚が芽生えるため、学ぶことが楽しみになり、次々に先へ進んでいくという。

「現在、小学2年生の学習内容は非常にボリュームが多くなっていますが、この学校ではあっという間に学び終わってしまって、3年生の内容を子どもたちが勝手に学んでいます。先生がわざわざ教えているのではなく、教材を与えているだけなのですが、3学期の終わりには3年生のまとめの問題をやっています」

誰もが伸び、しかも効率的かつ高速の学び。「勉強時間は短くなったのに、なぜか成績が上がった」という保護者同士の会話も聞こえてくるというが、子どもたちが学び方、もっといえば“伸び方”を習得していることの表れだといえよう。子どもたちは喜び、教員の負担は減り、保護者の信頼は厚くなる。好循環以外の何物でもない。

「子どもたちがこんなに伸びるという事実を、誰もが最初は信じません。でもそれは、『できない』と先生も保護者も思い込んでいるだけなんです」

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