カロリーメイトの「イエローマン」の狙いは何だ?《それゆけ!カナモリさん》

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■大塚製薬がイエローマンに込める想い

 重要なのは、その集計には、「ここ1年では利用したことがない」が50.8%いることだ。

 E.M.ロジャースの普及論で考えても利用者が半分ということは、各社のシェアを足し上げても、取り込めているのは革新的採用者(2.5%)、初期少数採用者(13.5%)、初期多数採用者(34%)までに留まっているのだ。最後に動き出す採用遅滞者(16%)はともかく、まだボリュームのある後期多数採用者(34%)の取り込みは必須である。

 大塚製薬というのは不思議な会社だ。「自らの手で独創的な製品を創る」ことを企業理念の一つとしているが、そうして作り上げた製品を、「売れるまで売る」のである。カロリーメイトは1983年に発売されたが、「バランス栄養食品」というカテゴリーは大塚製薬が切り開いたものだ。主力商品の一つ、ポカリスエットの販売が軌道に乗るまで粘り強くサンプリングを繰り返したり、水分吸収に関する大規模な実証実験を行ったりしたことは有名だ。同社が非上場を貫くのは、その独自性を維持するためだとも言われている。

 男性を対象としたスキンケア化粧品「UL・OS(ウル・オス)」など次々と新分野を開拓していくが、2008年12月22日付日経ビジネスのインタビューに答えた攝津浩義副社長(当時)が「扱っている商品の半分は、利益が出ていない」と話しているように、地道な啓蒙、営業、広告活動のすえ、利益を生むまでの商品に育てるには、時間がかかる。それゆえに、いったん新しい市場を開拓した商品、特にオロナミンC、ポカリスエット、カロリーメイトなどの大型定番商品は、新たな取り組みを可能にする土台として、重要な役割を果たしているのだ。

 「グラスに入っているワインを見て”ああ、もう半分しか残っていない”と嘆くのが悲観主義者。”おお、まだ半分も残っている”と喜ぶのが楽観主義者である」。 イギリスの劇作家、ジョージ・バーナード・ショー(George Bernard Shaw:1856~1950)の言葉だ。

 大塚製薬にとっては、「おお、まだバランス栄養食品を利用していない人が、まだ半分もいる」という市場環境であり、利用者もまだまだ、利用頻度を高める余地があるという状況なのだ。決して、半分取ったからもういいではない。

 「ほ~ら、そんなシーンに出くわしたことがあるだろう?」と、イエローマンが「そこは持っとかないと。篇」で需要を喚起した。「健やかなる君へ(夏)篇」では、「意外な展開が仕事をドラマにする、かもだゼ!」とやさしいメッセージとともに、イエローマンがカロリーメイトを渡してくれるシーンを印象づけている。

 前掲週刊流通ジャーナル記事によると、04~06年と比べ、現在のシリーズを放映している07~09年の3カ年の売上は約15%の伸びをみせたというから、狙いがばっちりはまっていることが分かる。

定番商品が築いた地位を維持し、コンビニエンスストアやスーパーの棚を確保し続けることは、並大抵のことではない。大塚製薬には、圧倒的な資本、規模の力で次々と新商品や新フレーバーが登場させ、消耗戦を繰り広げる世の中へのアンチテーゼの想いもあることだろう。もっさり系の荒川良々の姿とは裏腹に、「ロングセラーを創る」という、意図やメッセージは、とても力強い。
《プロフィール》
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2010年9月3日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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