「他人を許せない人の脳」で起きている恐ろしい事 「30歳まで」にどんな人と出会ったかが大切

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人間は、自分が言い続けてきたこと、やり続けてきたこと、信じ続けてきたことをなかなか変えられません。そして、それまで見せてきた自分と矛盾しないように振る舞わなければいけないという根拠のない思い込みに、無意識に縛られています。この現象を、心理学では「一貫性の原理」と呼んでいます。

Ⓒ川井いね子/アスコム

しかし、そもそも自分自身、そして他者にも一貫性を求めること自体、不可能なことなのです。人間である以上、言動に矛盾があるのは当たり前、過去の発言や振る舞いを覆してしまってもしょうがないのです。今は絶対的な真実と信じていることだって、いつかその間違いに気づく日が来るかもしれません。そのように「信じていたこと」を裏切られたと感じることこそ、摩擦やいざこざの原因にもなったりするわけですが、それを回避するいちばんいい方法は、他人に「一貫性」を求めること自体をやめることではないかと思います。

対立ではなく並列で考える

正義中毒から解放される最終的な方法は、あらゆる対立軸から抜け出し、何事も並列で処理することではないかと思います。

A国とB国、宗教Aと宗教B、男性と女性でもいいのですが、異なる人間同士が集まれば、対立軸はいくらでも発生します。そして、誰しもが、そのなかでいくつものグループに所属することが可能です。それぞれに視点や知見があり、議論が生じます。それ自体は健全なことです。

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しかしここで正義中毒にかかってしまうと、どちらかが参ったと音を上げるまで死力を尽くして相手を攻撃し続けることになります。

「あいつはバカだ」「あいつはおかしい」と感じるその「あいつ」のなかにも、人格や感情、思考が必ず存在します。自分とは違うその何かを、すぐに拒絶してしまうのではなく、まずはいったん受け止める、包み込んでみる。相手の発信した内容を評価し否定する前に、まず、なぜ相手はそう発信したのか、そこから新しい知見が得られないかを考えてみる。

そうすることで、新しい、ポジティブな何かが得られるかもしれません。一度その感覚を体験できれば、自分こそが正義だとは考えにくくなるでしょう。私は、これこそが知性の光のように思えます。

人間は不完全なものであり、結局永遠に完成しないという意識が人間を正義中毒から解放するのではないでしょうか。

中野 信子 脳科学者

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なかの のぶこ / Nobuko Nakano

医学博士、認知科学者。1975年、東京都生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。現在、東日本国際大学教授。著書に『脳内麻薬』『ヒトは「いじめ」をやめられない』『サイコパス』などがある。テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。

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