香港に代わる金融ハブに東京が10年内になる根拠 2030年までに移る可能性、米中覇権戦争で漁夫の利

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シンガポールは中華圏の国であり、アメリカの対中制裁に与していないことが何よりそれを物語っている。間接的であるにしてもアメリカおよびアメリカと同盟関係にある国々が、そうしたシンガポールの国際金融センターを信認してビジネスを展開するとは思えない。

また、香港と同様にシンガポールも大英帝国時代の名残であることを忘れてはならないだろう。つまり、現在はパックスブリタニカではなくパックスアメリカーナの時代なので、アメリカからしてみれば、アジアの金融ハブをシンガポールに置きたくないはずだ。

しかもシンガポールは地理的にアメリカから最も遠いところにある。何か不測の事態が生じた場合、資金やシステムを守らなければならないとしたら日本、それも東京であればはるかにリスクが少ない。

さらには、「中国は、香港がアジアの金融センターであることを手放すはずがない」という意見もあるようだが、周知のとおり香港は中国の「一国二制度」に揺れている地域であり、このグローバル経済の時代に香港に限らず、上海、北京、深圳のいずれかの都市に金融センターを置くこと自体危険このうえない。その都市で第二、第三の天安門事件が勃発すれば、それこそ世界的な金融危機の引き金になりかねないだろう。

そして資本家や投資家にとって最も大事なことは、資産の安全が国家に脅かされないことである。お金は不安を最も嫌うし、逃げ足は速い。資産がいつ没収されてもおかしくないところにはお金が集まらない。

ニューヨークが世界一の金融センターである理由

なぜ、ニューヨークが世界一の金融センターとして機能しているかといえば、アメリカドルに対する信頼と同様にアメリカの世界最強の経済力・軍事力に担保されているからだ。

『米中覇権戦争で加速する世界秩序の再編 日本経済復活への新シナリオ』(KADOKAWA)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

2001年の9・11同時多発テロ事件を思い出していただきたい。ニューヨーク・マンハッタンのワールドトレードセンターが崩壊した際、世界中の多くの投資家がまさに薄氷を踏む思いに駆られたはずだ。だが、ウォールストリートの機能は止まらなかった。

中国共産党は直近で民間セクターや資本家を完全に統制しようとしている。そんな国に世界の投資家は集まらない。今年に入ってから中国の統制を嫌ってアメリカ上場の中国株が暴落しているのが象徴的である。

中国の成長ストーリーへの投資は終わったと思ったほうがいい。次は日本の番である。

以上、こうしたことを鑑みると、おそらく東京の国際金融都市化はすでにコンセンサスが取れているように思われる。

エミン・ユルマズ エコノミスト、為替ストラテジスト
Emin Yurumazu

トルコ・イスタンブール出身。16歳で国際生物学オリンピックの世界チャンピオンに。1997年に日本に留学。一年後に東京大学理科一類に合格、2004年に東京大学工学部を卒業、2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了後、野村証券に入社。投資銀行部門、機関投資家営業部門に携わった後、2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『新キャッシュレス時代 日本経済が再び世界をリードする 世界はグロースからクオリティへ 』(コスミック出版)、『コロナ後の世界経済 米中新冷戦と日本経済の復活!』(集英社)など

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