ベールを脱いだ新生「本田技術研究所」の存在意義 研究開発は空飛ぶクルマや宇宙事業にも及ぶ

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技術研究所の元チーフエンジニアで名古屋大学未来社会創造機構・客員教授の佐藤登氏は「足元の収益や業績面はホンダ本体が担い、将来的な投資や長期的な研究開発は技術研究所が担う体制になる。時代に合わせた組織体制への移行が必要だったのではないか」と指摘する。

本田技術研究所は1960年、研究開発部門を強化する必要性で一致していた本田宗一郎氏と番頭の藤沢武夫氏が主導し、経営から独立した状態で技術開発を行える環境を作るために設立された。

これまで、1970年代にアメリカの厳しい環境規制を世界で初めてクリアしたCVCCエンジンの開発、ミニバンブームを牽引したオデッセイなどヒット車の開発に加え、既存事業以外ではホンダジェットや2足歩行型ロボット「アシモ」などユニークかつ競争力のある商品を生み出してきた。

技術だけでなく事業も考える

「新しい技術をわかっている人たちが、どう事業をやっていくかまでを考えるべきだと思っている」。大津社長がこう語るように、ホンダは今回の組織再編で技術研究所のあり方を再定義しようとしている。単に研究開発をするのではなく、エンジニア自身が将来的な事業化をきちんと見据えて開発を行うわけだ。

eVTOLは技術開発に加えて、4輪や2輪など他のホンダ製品と組み合わせたモビリティサービスを起ち上げ、どのように収益に結びつけていくかという具体的な事業の形がこれからの宿題となる。宇宙事業でもロケット開発は、テスラのイーロン・マスク氏が率いる「スペースX」やアマゾン創業者であるジェフ・ベゾス氏の「ブルーオリジン」などがこぞって参入し競争が激化している。いずれも10年20年先を見据えた長期的なプロジェクトで、収益化には継続した取り組みが欠かせない。

さらに、自動運転や電動化の技術開発も極めて重要だ。中でも燃料電池車(FCV)やFCシステム、自動運転技術の研究開発は莫大な投資が必要になる。ここへの研究開発投資を惜しめば、本業である4輪事業の競争力に影響が及ぶ。限られた経営資源を新領域とモビリティ関連の技術開発にどう振り分けるのかも大きな課題だ(2022年3月期のホンダ全体の研究開発費は8400億円を計画)。

技術研究所の設立趣意書には「研究機関存在の意義は『未知の世界の開拓を通じて、新しい価値を創造する』もの」と書かれている。「技術をわかっている人たちがイニシアティブをとる未来を広げていく必要がある」(大津社長)。未知の領域に特化した研究開発体制で存在感を高めながら、目の前の競争環境にも適応していけるのか。再スタートした技術研究所はより高度なバランス感覚を求められている。

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三部敏宏社長が明かす「脱エンジン」の真意

EVに全集中、ホンダの大胆すぎる「生存戦略」

横山 隼也 東洋経済 記者

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よこやま じゅんや / Junya Yokoyama

報道部で、トヨタ自動車やホンダなど自動車業界を担当。地方紙などを経て、2020年9月に東洋経済新報社入社。好きなものは、サッカー、サウナ、ビール(大手もクラフトも)。1991年生まれ。

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