バイトマン独連銀総裁退場はラガルドへの抗議か 連銀総裁・ECB理事辞任に見る「ドイツの孤独」

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気になる後任については、現在連立協議が進められている社会民主党(SPD)を中心とする新政権が決めることになる。既報のとおり、SPD・緑の党に自由民主党(FDP)が加わる信号連立(シンボルカラーが赤・緑・黄色)の公算が大きく、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)を主軸とする現政権と比べれば左傾化が予想される。財政政策に関しても拡張路線に傾くことが予想され、これもまた、バイトマン総裁との衝突が予見される点であった。

要するにドイツ国内外で孤立を深めることが見えている状況であり、その中で辞任に至ったという文脈は知っておきたい。次期首相候補のショルツSPD党首に辞意が伝わったのは公表の直前だったとも報じられている。

現状で漏れ伝わってくる後任候補はブーフ・ブンデスバンク副総裁、ウルブリッヒ・ブンデスバンクチーフエコノミストなどで、国内の経済学者の登用も考えられている様子だが、2020年1月に着任したばかりのシュナーベルECB理事を推す声もある。

SPDも緑の党もジェンダーバランスを強調しているだけに、初の女性総裁として、シュナーベル理事のブンデスバンク登用は十分考えられる。現状、ユーロ圏19カ国の中銀において女性総裁は1名もおらず、新政権のPR効果を当て込んだ人選にもなる。

しかし、そうなれば2020年1月に着任したばかりのECB理事の地位をシュナーベル氏は途中辞任し、新政権はここでも候補を立てなければならない。時流を考えれば、その後任も女性が好まれるのだろう。問題はドイツ人のECB理事が4名連続(シュタルク→アスムセン→ラウテンシュレーガー→シュナーベル)でお家事情を理由に任期を全うできないという事実であり、それはそれでドイツ政府の体面に障る話ではある。

分かり合えない金融政策という論点

ECB総裁と同じ国籍の理事は選ばれないことが不文律としてあるので、その場合の理事の途中辞任は不可抗力とされる。例えば、現在はラガルド総裁と同じフランス人のECB理事は存在しない。過去を見てもイタリア人のドラギECB総裁が就任するタイミングでイタリア人のスマギ理事が途中辞任している。しかし、一連のドイツ高官の辞任は基本的には体制に対する抗議であり、言ってみれば「ドイツの孤独」を浮き彫りにした結果である。

アフターメルケル時代のドイツは、従前とは異なり、EU域内と一致協力し、真の盟主として敬意が払われる存在になるべきと筆者は考えるが、政治はともかく、こと金融政策という論点に関してはドイツと他国の分かり合えない状況は当面続いてしまうのかもしれない。
 

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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