ただの変人か、南方熊楠の再来か? 『裏山の奇人』を読む
そして、奇人の快進撃がはじまる。アリの巣とその行列という狭い環境を徹底的に見ることで、未知の好蟻性生物を数多く発見したのだ。狭い環境を広い視野で観察し続けてこその成功、と言っていいだろう。
こうしてみると、小松氏は生きものだけを相手に過ごしてきたような雰囲気がある。だが、人生の節目で人との必要な出会いを経験し、それをきちんと糧にしている。
ただの奇人で終わらなかった理由
生物がらみの迷信を多々ふきこんだ祖母からは、自然への畏敬の念を。小学校の図工の先生からは、人が才能を認めてくれるという自己肯定感を。父の同僚だった虫好きおじさんからは、データをきちんと残す重要性を。これらの出会いがなかったら、著者は研究者ではなく、ほんとうにただの奇人で終わっていたかもしれない。
ところで、私が小松氏を知ったのは、2012年に行われた昆虫大学というイベントだった。会場内で催されていた好蟻性生物の写真展に添えられていたのは、「愛する物は二次元美少女。持病は中二病」と書かれたプロフィールと、無表情にバナナをかじっている青年の横顔の写真。好蟻性生物を美少女キャラ化した小松氏によるイラストまで配られていた。まさに、強烈な印象を残した「奇人」であった(冒頭の写真)。
人はきっとこれからも奇人のまま、「わからないことをわかりたい」精神で、私たちの知らない生きものたちの世界を、解き明かし続けてくれることだろう。活躍が楽しみな若手研究者が、また一人増えた。
(画像提供:東海大学出版部)
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