豊かな人生を遠ざける「稼いだ金は自分に」の思考 何の目的もなくお金を貯めている人も要注意
シマオ:隣人に返す、か。だから欧米では、チャリティの考え方が浸透しているんですかね。
佐藤:財団などを作り莫大な金額を寄付している資産家も、日本よりずっと多いですよね。アメリカの石油王として有名なロックフェラーは、事業家として成功した後、その財産でロックフェラー財団を設立し、研究や教育などを支援しました。彼は「世界で最も貧しい人は、金以外の何も持っていない人である」という言葉を残しています。
シマオ:確かに。アメリカのドラマなんかを見ると、いつもチャリティパーティとかしてるイメージありますね。
佐藤:また、キリスト教では「人は神とマモン(富)の両方に仕えることはできない」(『マタイによる福音書』第6章24節)ともいっているんです。
シマオ:マモン?
富とは実体なく人間を簡単に支配するもの
佐藤:マモンとは、アラム語(イエスの使っていた言葉)で「富」のことです。日本語の聖書では「富」、英語だと「Money」と訳されていますが、本来は訳すことのできない言葉です。なぜかと言うと、「富」と訳してしまうと、あたかも「形を持ったもの」であるかのように感じてしまうからです。
シマオ:じゃあ、そのマモンは形がないということなんですか?
佐藤:はい。私たちは富をお札などの形ある「お金」として思い描いてしまいがちですが、本来、富は実体のないものなんです。つまり、富というものは、いろいろな姿に形を変えて人間を簡単に支配する力を持っている。それにあらがうことは大変難しい。だからイエスは、マモンに気をつけろと、わざわざ言葉にして、弟子に伝えたのです。
シマオ:昔から人間の本質は変わらないんですね。
佐藤:ええ、変わりません。仏教にもイスラムにも似たような考え方があります。すべての世界宗教が考える豊かさの概念は同じ。豊かさは、富を遠ざけることでしか得られないのです。
シマオ:富を遠ざけることで豊かさが手に入る……。
佐藤:富と豊かさはイコールではないのに、気を抜くとすぐに、富は豊かさや神さえも優越しようとする危険性をはらんでいるんです。ですので、どの宗教も何千年も前から「お金」を警戒しています。お金を拝むということは、すべてをお金に換算して測るということ。それは人間にとってよくないことだというのが、宗教が歴史的に何千年にもわたって積み重ねてきた知恵なんです。
シマオ:富に実体がないとすると、じゃあ富はいったい何で確かめることができるのでしょうか?
佐藤:はい。「富とは何か」という問題について考えたのが、イギリスの経済学者アダム・スミスです。
シマオ:誰ですか?
佐藤:アダム・スミスは『国富論』などの著書で知られます。市場という「見えざる手」が生産性を最大化するという理論を唱え、「近代経済学の父」とも呼ばれます。
シマオ:わかりやすく説明していただけますか。
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