パナソニックが「松下離れ」後に背負う十字架

創業家の世襲問題をめぐる悲喜こもごもを経て

パナソニックは創業者・松下幸之助氏の存在感がいまだだに大きい(撮影:ヒラオカスタジオ)

近年、経営学ではファミリービジネス(同族企業)が注目されている。ファミリービジネスのほうが経営者企業(非ファミリービジネス)より業績が比較的優位にあるからだ。件数でいえば、日本は中小企業大国であると同時に、ファミリービジネス大国でもある。だが、日本経済、グローバル経済に対して大きな影響力を持っているのは、大企業のなかで多数派を占める経営者企業であることも否めない事実である。

その意味で、松下幸之助氏という「経営の神様」と呼ばれた創業者を亡くし、その後、創業家出身者が辣腕を振るうことなく、紆余曲折を経てファミリービジネスから経営者企業へ移行したパナソニックは、日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)を考えるうえで重要なケーススタディになる。

創業家とサラリーマン経営者の暗闘、創業家出身取締役の消滅、東京シフト、幸之助氏の家族観、「新社」のCEO(最高経営責任者)に求められる経営哲学と表現力、など、他のパナソニック関連の記事では、あまり見られない視点から同社の企業文化に迫る。

取締役に松下家出身者がいなくなっただけでなく

「最近、正幸さんは会社に来られていないみたいです。昨年辺りまで、ときどきお顔を見たのですが」

パナソニック関係者が口にした「正幸さん」とは、創業者・松下幸之助氏の孫に当たる松下正幸氏(75)である。2019年6月に取締役副会長を退任し、取締役からも外れ非常勤の特別顧問を務めていた。

「入社はパナソニックの創業50年のときで、昨年に創業100年を迎えた。50年勤続して良い節目だ」(正幸氏)と自ら退任を申し出た。

取締役に松下家出身者の名前がなくなっただけでなく、社内のフロアからも姿を消したことになる。正幸氏の子供4人(1男3女)のうち、長男の松下幸義氏(1988年生)が、2011年にパナソニックに入社したが、大政奉還となる可能性の有無は今のところ断言できない。正幸氏は、幸義氏の努力と才能次第、と肯定も否定もしていないが、「会社は社会の公器」という幸之助氏の考え方を尊重している。「松下家から役員を」というこだわりは両親(正治氏夫妻)ほど強くない。

「松下」の消滅は今に始まったことではない。まずは、1989年4月に松下正幸氏の祖父で創業者の幸之助氏が亡くなり、2009年に妻・昌子(よしこ)さんに56歳で先立たれた(昌子さんの祖父は、日本生命の元社長・弘世現氏)。そして2012年7月に父で元会長の正治氏が99歳で天寿を全うし、今年(2021年)2月に同じく99歳で母・幸子さん(幸之助氏の長女)が正治氏の後を追った。

すでに、2008年10月に松下電器産業から「パナソニック」に社名変更し、2020年4月には「パナソニック電工(旧:松下電工)、「三洋電機」を株式交換により完全子会社化。「松下」は名実ともに消滅した。

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