「ワクチンパス」導入したフランス観光地の現在 大ダメージを受けていたが徐々に回復へ向かう

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なるべく手軽に陰性証明を得られる環境も作られている。例えば衛生パス導入後は、美術館やショッピングセンターの入口に簡易検査所が設けられた光景を多く見られるようになった(ただし、それ以前からもパリ市内では至る所に簡易検査所は設置されていた)。

ワクチン未接種であっても、その場の抗原検査で陰性を証明し、「72時間以内の陰性証明」という枠ですぐに衛生パスを取得できるようにするためだ。

フランスの健康保険証を持っていれば検査は無料。海外からの旅行者など、フランスの健康保険証を持っていない場合は有料だ(以前は所持していない人でも無料だった)。検査料は施設によって多少の幅はあり、例えばパリのシャルル・ド・ゴール空港の場合、抗原検査が30ユーロ(約3800円)、PCR検査は50ユーロ(約6500円)である。

罰則もある。衛生パスの不提示には135ユーロ(約1万7000円)の罰金が科され、施設側の確認怠慢は、一時的な業務停止命令の対象となる。再発が確認された場合には、懲役1年と9000ユーロ(約120万円)の罰金、さらに衛生パスの偽装や衛生パスの確認業務に携わる従業員などへの暴力行為には、135ユーロ(約1万7000円)が科される。

ヨーロッパと日本で議論のタイミングにズレ

コロナ禍になってから、フランスと日本を何度か往復する機会があった。このような状況から日本に戻り、東京などで新型コロナの話題を聞いていると、少し前のヨーロッパのようだと感じる。

これほどまでに新型コロナウイルスが感染拡大するとは日本政府も予想していなかったのかもしれないが、以前からフランスなどですでに議論されていた内容が、今さらのように日本で話題になっている。

コロナ禍は世界にとって未曾有の経験である。刻々と変わる未経験の状況に対して、何が最も効果的な政策であるかは、各国にとってつねに手探り状態であることは確かだ。そのなかで先陣を切って新しいことを行っていくことに、苦労は多いだろう。

幸いにも日本は、ヨーロッパから遅れて大きな感染拡大を経験している。世界の先頭集団の動向をしっかりと見極めながら政策を練ることができる優位性を活かし、今後の対策が行われることを切に願う。

守隨 亨延 ジャーナリスト

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しゅずい ゆきのぶ / Yukinobu Shuzui

愛知県出身、パリ在住。ロンドン大学クイーン・メアリー公共政策学修士修了。東京で雑誌記者、渡仏後はANNパリ支局勤務などを経て、現在は『地球の歩き方』フランス・パリ特派員。フランス外務省外国人記者証所持。主な取材分野は日仏比較文化と社会、観光。故郷の愛知県東海市では『聚楽園大仏を次の世代に伝える会』代表として関連文化財の保護活動に従事する。

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