大阪以外で初めて誕生した「維新系知事」の実情 兵庫県知事選「本当の勝者」は誰だったのか

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ここで先手を打ったのが維新である。県組織の「兵庫維新の会」は斎藤氏を候補者の一人にリストアップしていたが、必ずしも有力ではなかったという。ところが、自民の分裂騒動を見た松井氏が主導して推薦方針を決め、3月下旬に会見で明言。トップダウンが徹底している維新は、代表の指令が下れば早い。自民より1週間前の4月5日に正式決定すると、「大阪の身を切る改革を支えてきた非常に優秀な人材」と持ち上げ、自民に先んじて「維新の候補」だという印象を作っていったのである。

「多選への倦怠感」と「世代交代の希求」

こうした経緯を経て突入した選挙戦で、金澤氏の陣営は「斎藤は維新が兵庫に送り込んだ」「神戸市を潰して兵庫都構想をやるつもりだ」といった類の〝維新ネガキャン〟を展開した。

井戸氏はコロナ対策に絡めて「大阪との県境に壁でも建てられたらいいのに。トランプさんみたいに」と発言し、批判を招いた。金澤氏本人は「改革か継承かと新聞は書くが、違う。井戸県政の単純な継承ではない」と訴えたが、後援会組織や支持団体は井戸氏からほぼまるごと受け継ぎ、実働部隊は元副知事を筆頭とする県庁OBたち。これで「継承ではない」と言っても無理があった。

7月18日、敗戦の弁を語る井戸前知事(中央)と金澤前副知事(右)(写真:松本創)

7月18日、投票締切と同時に斎藤氏に当確が出ると、金澤事務所では「維新とメディアに負けた」という恨み節も聞かれたが、本当にそうだろうか。

多選を重ねた井戸知事が〝独裁者〟となって誰も物が言えず、組織が硬直化しているという話は県庁職員からもたびたび聞こえてきた。選挙期間中、行く先々で有権者に話を聞くと、「コロナ禍で初めて知事の肉声や人柄に触れ、こんな人だったのかと幻滅した」「県政への不満は特にないが、次は若い人にやってほしい」という声が多かった。知事公用車センチュリーの乗り換え問題や「うちわ会食」などの逆風もあったが、一番大きいのはやはり「20年は長い」という多選への倦怠感と、世代交代の希求だったと感じる。その意味で、負けたのは金澤氏ではなく、井戸氏だったのではないか。

新知事となった斎藤氏は、改革意欲のある職員を10人ほど集めて「新県政推進室」を設置し、行財政改革をはじめ、県政刷新の司令塔にするという。維新の創設者である橋下徹氏が2008年に大阪府知事に初当選した直後に設置し、大ナタを振るった──そして、公共施設の廃止や文化・地域団体への補助金カットなどで多くの禍根を残した──「改革PT(プロジェクトチーム)」を彷彿とさせる。

だが、公務員との対決姿勢を鮮明にしたタレント出身の橋下氏と異なり、斎藤氏は地方自治体の現場をいくつも経験してきた総務官僚である。県議会は自民分裂の煽りで4分の1に満たない少数与党でもある。「そう強引に無茶なことはできないだろう」と見る関係者が、今のところ多い。

斎藤氏が勝つために維新を利用したのか、維新が党勢拡大へ斎藤氏を利用するのか。分裂した自民の今後は──。「維新か反維新か」という単純な二元論にとらわれず、県政刷新の行方を注視していくしかないだろう。

松本 創 ノンフィクションライター

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まつもと はじむ / Hajimu Matsumoto

1970年、大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、現在はフリーランスのライター。関西を拠点に、政治・行政、都市や文化などをテーマに取材し、人物ルポやインタビュー、コラムなどを執筆している。著書に「第41回講談社本田靖春ノンフィクション賞」を受賞した『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社、のちに新潮文庫)をはじめ、『誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『ふたつの震災――[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(西岡研介との共著、講談社)、『地方メディアの逆襲』(ちくま新書)などがある。

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