林氏出馬で勃発、「二階vs岸田」代理戦の複雑怪奇 現職・河村建夫元官房長官と保守分裂選挙へ

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今回の山口3区についても、水面下で②や③の対応が模索されたが、河村氏が二階幹事長の最側近だけに、「仁義なきガチンコ対決にせざるをえなかった」(自民選対)とみられている。

そこで注目されるのが、「山口のドン」でもある安倍前首相の出方だ。もともと安倍家と林家は選挙地盤が重なっており、安倍氏にとって林氏のくら替えは絶対認められない。特に、1票の格差是正を受け、次の次の衆院選では山口県の小選挙区が現在の4から3に減る見込みとなっている。そのため、林氏が割って入れば、大混乱になるのは確実とされる。

しかし、林氏のくら替えに伴う参院山口選挙区補欠選挙に、これまで比例代表で当選してきた細田派で安倍氏の側近議員が出馬し、さらに、同議員の出馬によって竹下派の元議員が繰り上げ当選になるという「政治的仕掛け」(岸田派幹部)も取りざたされている。

ライバル・岸田氏の「微妙な立場」

このため、自民党内では「二階氏との関係悪化が指摘される安倍氏は、地元での二階氏の影響力を削ぐため、あえて動かないのでは」(選対幹部)との見方も広がる。まさに「自民党内の権力闘争が山口3区に持ち込まれた格好」(自民長老)ともみえる。

さらに微妙なのは、林氏を支援する岸田氏の立場だ。岸田氏にとって林氏は、首相を狙うライバルでもある。次期衆院選で林氏が衆院くら替えに成功した場合、岸田派は2人の首相候補が並び立つ事態となる。

2020年9月の総裁選に初出馬し、菅首相に大差をつけられて2位となった岸田氏。自前の候補を擁立して陣頭指揮をとった4月の参院広島再選挙では野党候補に惨敗し、自民党内でも「選挙に弱い岸田氏」(細田派幹部)が定着し、首相候補としてのひ弱さも目立つ。

岸田派内でも「今回、林氏が当選して衆院議員となれば、派閥としても岸田氏に代わる首相候補とすべきだ」(幹部)との声も出る。今回、派閥領袖として林氏を支援することが「自らの首を絞める結果」(自民長老)ともなりかねないわけだ。

ポスト菅への挑戦権も懸けて、自民党最高実力者として権勢を誇示する二階氏にたてつく形となる岸田氏。その一方で「山口3区の選挙をきっかけに、二階降ろしを仕掛ける構え」(自民長老)とされる安倍氏。まさに「ポストコロナ政局での敵味方が入り乱れる複雑怪奇な構図」(同)ともみえる。

ただ、「混迷を深めるコロナ・五輪政局の今後の展開次第では、衆院選と総裁選に菅政権の命運が懸かる可能性」(閣僚経験者)も少なくない。ここにきての菅内閣の支持率再下落で、「衆院解散は総裁選後の10月以降」との見方も急浮上している。

次期衆院選がどのような状況下で行われるのかは、「不確定要素だらけで予測不能」(同)とみる向きも多い。それだけに「権謀術数が渦巻く山口3区の乱は、選挙の公示直前まで何が起こるかわからない」(地元関係者)のが実態だ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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